株高が止まらない。6月に入って3営業日で日経平均株価とダウ工業株30種平均はそれぞれ3%超上昇した。先行きについても強気の見方も増える中、リスクはないか。冷静に足元の状況を俯瞰したい局面でもある。
■今の市場にとって重要なコト
6月に入って日経平均株価は3日続伸した。足元、日経平均株価の月間騰落率は4~6月まで3カ月連続で上昇している。5月25日、米ミネアポリス近郊で黒人男性が白人警官に暴行されて死亡。これを受けて、全米では警察への抗議活動が広がった。ただ、直近では店舗への略奪や暴動など、単なる抗議活動だけではすまなくなってきた。ニューヨーク市などは夜間外出禁止令を出すなど、新型コロナウイルスから徐々に経済活動の再開に向けた動きに水を注す格好となった。
これについてゴールドマン・サックスは2日付リポートで、「米国では暴力的な抗議行動が相次ぎ、特に新興国ではコロナウイルスによる死者が増え続けている。ただ、最も重要なことは、欧米経済が再開し始めているにもかかわらず、新型コロナウイルスの感染が大幅に拡大していないこと」と指摘。米中対立の激化懸念についても、「少なくとも短期的には、両国とも景気回復を優先し、深刻な事態の拡大を回避することが期待される」とした。ゴールドマンは5月下旬に、S&P500種株価指数が今後3カ月間で2400まで下落するとの予想を撤回。3カ月後のS&P500を2950、年末は3000とそれぞれ予想した。
それでも、先行きの株価について警戒を緩めない声も多く聞かれる。「経済再開による経済指標改善期待はもちろんあるが、足元の株高を演出しているのは何といっても各国の財政政策・金融緩和だ。アメリカでの抗議活動と新興国での感染拡大を受けて、まだまだ新型コロナウイルスの影響は完全にマーケットから抜けきらないだろう。そのような状況が続く限り、マーケットでは追加の財政期待が醸成されやすい側面もある。ただ、世界一斉で新型コロナの感染が拡大した3月と異なり、今は地域ごとによって感染状況が異なっている。徐々に財政期待への効果も薄れてくるだろう」(国内ストラテジスト)。
■業績予想悪化でも株価は上昇の怪
主要企業の業績予想の変化を示すQUICKコンセンサスDI(QCDI)は、5月末時点で金融を含む全産業ベースがマイナス66と前月から9ポイント悪化した。アナリストによる業績下方修正銘柄数はリーマン・ショック後の3月期決算が発表された2009年4月以来の水準となっている。中でも、製造業DIはマイナス78と、非製造業のマイナス51に比べて悪化が目立つ。
これまで製造業DIとTOPIXの前年同月比騰落率には強い相関が見られていた。ただ、足元では製造業DIが落ち込む一方、株価は堅調な状態となっている。
「20年3月期決算はある意味、無難にこなしたと言えそうですが、本番は20年9月期、21年3月期。業績見通しを示さなかった企業が改めて新型コロナの影響を考慮したガイダンスを提供することや、減配に踏み切る可能性も考えられる」(外資系証券)と、経済指標などトップダウンから個別企業のボトムアップへと相場の材料が変化するのではとの声も聞かれた。
バブルとも評される足元の株高を受けて、FOMO(Fear of Missing Out=取り残される恐怖)の雰囲気もまん延してきた。それでも、より長期の視点で見た場合、買い場はまだまだ残っていると言えるかもしれない。(QUICK Market Eyes=大野弘貴)
◆QUICKコンセンサスDIとは◆
アナリストが予想連結純利益を3カ月前時点に比べて3%以上、上方修正した銘柄を「強気」、下方修正した銘柄を「弱気」と定義し、「強気」銘柄が全体に占める比率から「弱気」銘柄の比率を差し引いて算出する。DIがマイナスなら、下方修正銘柄が上方修正銘柄を上回っていることを意味している。5社以上のアナリストが予想している銘柄が対象で、主要企業の業績に対する市場全体の期待値が上向きか、下向きかが分かる。