インターネット上の暗号資産(仮想通貨)ビットコインの4年に1度のビッグイベント「半減期」からまもなく1カ月。世界的な株高で余裕のできた投資家の資金も呼び込み、ビットコインのドル建て価格は2日朝方に1万300ドル程度と2月以来の高値を付けた。そんな中、ビットコインとの連動性を強める仮想通貨の「怪しい伏兵」、テザーが台頭している。ビットコインの思惑的な買いにつながる一方で、テザーの裏付け資産には不透明感がくすぶっている。
■膨らむテザー
年初に41億ドル程度だったテザーの時価総額は足元で92億ドル程度と2倍以上に膨らんでいる。特に3月末以降の増え方が急で、時価総額は有力コインとされるリップルを上回り、仮想通貨全体で3位につけている。
テザーは公式には1ドル=1テザーの等価交換をうたうが、裏付けとなるドルを十分に保有していないとささやかれる。昨年春以降はビットコインも裏付け資産に加わった可能性が高い。価格変動がほとんど起こらない仕組みのテザーの時価総額が拡大したのは大量の新規発行があったためで、もしビットコインの裏付け資産説が正しければビットコインの買いも相応に入るはず――。そうした思惑が投機的なビットコインの需要を刺激したようだ。
だが、テザーの大量発行に見合うだけのビットコインの買いが拡大したとは言い切れない。ビットコインを買うにもドルやユーロなどの資金が必要だからだ。
■懐疑的な裏付け資産
テザーのサイトを見ると、裏付け資産の一つとして「receivables」という仮想通貨の世界では耳慣れない項目が出てくる。日本語にすると「売掛債権」にあたる。つまり「手元に現金はないが、期限までに返ってくる債権があるのでそれをひとまず資産計上する」というわけだ。ビットバンクの長谷川友哉マーケット・アナリストは「バランスシート(貸借対照表)に資産として組み入れているので、担保を取れていると受け取れるが、怪しい」と指摘する。
しかもreceivablesの相手方には「affiliated entities(関係会社)」が入っている。関係会社とは、経営陣がテザーと共通し、テザーを大量保有しているとされる交換業者のビットフィネックスではないかとの連想も働く。いずれにしろテザー関連のビットコイン買い観測はまゆにつばを付けて聞いたほうがよさそうだ。
これまでビットコイン相場を支えてきたマイナー(採掘者)の懐具合も厳しくなっている。5月12日に迎えた半減期でビットコインをマイニング(採掘)するマイナーの報酬は半分になった。最新鋭のマイニング機器を使えるならいまの水準でも採算を取れるが、資金余力の乏しい中小マイナーは機器更新は難しい。
■急低下するハッシュレート
5月以降、撤退あるいはマイニング停止したマイナーが増えたのを示すデータがある。マイニング能力の高さを示すハッシュレート(採掘速度)の急低下だ。5月末には半減期前と比べて30%弱下がり、今年の最低水準に落ち込んだ。
ハッシュレートに応じて自動的に調整されるマイニングの難易度は半減期後に6%低くなった。今週末にも再度、難易度は調整される公算が大きい。それでもハッシュレートは不安定なまま。マイニングの遅延やシステム全体の安定を揺るがしかねなくなっている。これではただでさえハッキングなどのリスクを抱える仮想通貨市場に多数の投資家を呼び込み続けることは至難の業だ。
ビットコインは2日に1万ドルを上回った後、1時間足らずで750ドルも急落した。日本時間4日午前の時点では9600ドル程度で推移している。急伸、暴落ともにいつ起きてもおかしくない「怖い」市場。暗号資産が株式と同じような手軽さで取引されるとは当の仮想通貨トレーダーですら想定していないのが現状だ。(日経QUICKニュース(NQN) 尾崎也弥)
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