中国株式市場で白酒メーカー、貴州茅台酒の勢いが止まらない。株価は1400元台と上場来高値圏で推移し、中国市場で最大規模の存在感を誇る。新型コロナウイルスの収束で個人消費が回復し、白酒の需要が増えるとの期待が株価を押し上げているが、金融緩和でカネがあふれるなか、価値の下がらない希少な「資産」として買われている面も大きい。
■市場は白酒の話題で持ちきり
QUICK・ファクトセットのデータによると、貴州茅台酒の人民元建てA株の時価総額は6月1日に1兆7830億元(約27兆円)に達した。国営の中国工商銀行の1兆7980億元(人民元建てA株と香港ドル建てH株の合計)に並ぶまで150億元に迫った。6月2日には一時、中国工商銀行を超えた――。市場は白酒の話題で持ちきりだ。
株高の背景には、白酒市場の回復がある。中国証券報によると、5月の白酒のオンライン販売額は前年同月比2.6倍の5億3000万元。このうち貴州茅台酒の直営店の売り上げは2億1000万元と8.9倍になった。
■「中国消費の高級化のトレンドは変わらない」
中国でコロナ感染が深刻だった3月ごろ、貴州茅台酒の主力ブランド「飛天茅台」の500ミリリットル入りボトルの市場価格は2000元(約3万円)を下回っていたが、足元では2400元前後に回復している。「コロナ問題は一時的で、中国消費の高級化のトレンドは変わらない」。藍沢証券上海代表処の柳林・首席代表はこう分析する。
飛天茅台の定価は1499元と、2年前から変わっていないが、今年後半にも値上げするとの観測が広がっている。転売して稼ごうとする業者が後を絶たないため、その利益を圧縮する狙いだ。人気商品なので、値上げしても簡単に販売が落ち込む心配はないといわれる。
■「茅台株イコール金(ゴールド)」
飛天茅台は中国で特別な存在だ。高級ワインと同じく時の経過とともに価値が上がる。接待や贈り物でも重宝される。習近平(シー・ジンピン)指導部が役人の腐敗撲滅に乗り出す前は「袖の下」の定番品だったとされる。ある百貨店が飛天茅台16万本の在庫を担保に、銀行から2億3000万元の融資を受けたという伝説を持つ。
最近は「茅台株イコール金(ゴールド)」ともてはやされている。中泰証券の梁中華チーフマクロアナリストは「茅台酒は生産量が限られ、時間がたっても価値が下がらないという点で金に似ている」と指摘する。
金融緩和でカネはあるが、昔ながらの投資先である不動産は当局の規制が厳しい。通貨の人民元そのものもなにやら不安定だ。となると、カネが向かう先はゴールドに匹敵する白酒、そしてそのメーカーということになる。なにしろ白酒はモロコシなどの穀物が原料なので、原価は極めて安い。貴州茅台酒の売上高総利益率はおよそ90%。白酒がゴールドなら、さながら錬金術だ。
■「中国経済を支えるのは消費とハイテク」
消費財メーカーと伝統的な銀行の時価総額のデッドヒートは、中国の経済構造の変化を映しているともいえる。貴州茅台酒のほかにも、同業の宜賓五糧液や調味料の佛山市海天調味食品といった銘柄のパフォーマンスには目を見張るものがある。「これからの中国経済を支えるのは消費とハイテク。そこでブランドの知名度が高い銘柄に投資マネーは集中する」(藍沢証券の柳氏)。
成長シナリオが描きやすい一方、気がかりは金融緩和の行方だろう。「6月以降は中国人民銀行もこれまでのように大量の資金を供給しなくなる」(東呉証券の陳李エコノミスト)。じゃぶじゃぶのカネの蛇口が急に締められると、白酒といえども泡とはじけて消えかねない。(NQN香港 林千夏)