新型コロナウイルスの感染拡大を機にESG(環境・社会・企業統治)の「S(社会)」の重要度が増している。社会的責任に優れた企業の評価が高まるなか、とりわけテレワークの導入率などを評価する「S」の側面に市場の関心が集まる。それらに積極的に取り組む企業が投資対象として選好される傾向が一段と強まるかもしれない。
■「S」の評価が株価に影響
2020年の新型コロナウイルスの影響下で社会的責任に優れた企業は、市場からの評価が高まった。ドイツのESG評価会社アラベスクS-RAY社の分析によれば、危機の間に「S」スコアの評価が上昇した企業は、3日の午前中までの年初来パフォーマンスがマイナス4.86%にとどまったのに対し、社会的スコアが低下した企業はマイナス40.8%だった。後者のグループから米アマゾン・ドット・コムのプラス33.8%を除くと、平均リターンは約マイナス47%にまでマイナス幅が拡大する。アマゾンのソーシャルスコアの低下に最も大きな影響を与えたのは、新型コロナウイルスの感染拡大の最中に倉庫の状況を批判した従業員2人を解雇したことだった。
野村証券によれば、コロナ「後」のESG指数のパフォーマンスを考える上で、「S」の重要度が高まる可能性があるという。ESG投資においてもっとも分かりにくいとされるのがこの「S」 だが、今回のコロナ禍を受けて、柔軟かつ頑健な働き方という観点や感染回避可能なビジネススタイルの構築という観点で重要度が意識される可能性があるという。「企業のテレワーク導入率や、人混みを避けるための時差出勤導入率、顧客の感染リスクを低減するような店舗デザイン・インターネット受注率などが改めてESG投資の重要な要素として意識される」との見方を示した。
■「ESG考慮が全ての基準に」
「S」に積極的に取り組み、評価を受ける企業が投資対象として選好される傾向が一段と強まるかもしれない。英金融サービス会社カラストーンが実施した調査では、ミューチュアルファンドの先行きについて、7割超の回答者が「ESGを考慮することが全ての基準になる」との見方を示した。カラストーンは機敏な経営管理体制や堅固なガバナンス構造を備えた企業こそが、コロナ禍における予測不能で前例のない市場環境をうまく乗り切れると指摘している。また米国では人種差別に対する抗議デモが全土に広がりをみせるが、PRコンサルティング会社エデルマンが9日に公表した調査によると、米国人の約6割が、黒人男性が警官に殺害された事件への企業の対応をみて、ブランドをボイコットするか、その商品を買うかを決めるという。(QUICK Market Eyes 川口究)