ドルの先安観が強まっている。ドルの総合的な強さを示すインターコンチネンタル取引所(ICE)のドル指数は6月23日、一時96.3台と3月に付けた高値(102台後半)から約6%下落した。新型コロナウイルスのまん延で3月以降、急速に強まったドル需要の反動からドル売りが進むとの予想が増えている。
■ドル買いは逆回転?
「ドルの持ち直しは短命に終わるだろう」。UBSウェルス・マネジメントのマーク・ハフェル氏らは22日付リポートでこう指摘した。米国の南部や西部での新型コロナの感染再拡大を受け、足元では再びリスク回避のドル買いが強まっていた。しかし、ハフェル氏らは新たな都市閉鎖(ロックダウン)は回避できるとみて「安全通貨としてのドルへの資金流入の流れは逆回転する」と読む。
■ユーロ買い・ドル売り
モルガン・スタンレーのマシュー・ホーンバック氏らも「世界経済の回復を受けてドルは弱含む」とみる。世界景気の改善や欧州連合(EU)の復興基金の創設などでリスク選好ムードが高まり、欧州単一通貨のユーロが対ドルで買われやすくなるためだ。ユーロは年末までに1ユーロ=1.16ドル台に上昇すると予想した。
予想を補強するように、23日発表の6月のユーロ圏の購買担当者景気指数(PMI)速報値の総合指数は市場が予想していた以上に改善し、ユーロ買い・ドル売りを招いた。フランスの製造業PMIは、52.1と好不況の境目である50を上回った。一方、新型コロナの感染者数が世界で突出する米国のPMIは前月から改善したが、市場予想に届かなかった。
■FRBの金融緩和
エール大学のスティーブン・ローチ氏は米国の国内貯蓄の落ち込みや経常赤字の拡大などを理由に、ドルが主要通貨に対し35%下落するとの見通しを示し、メディアで話題だ。米マーケットウオッチのインタビューでは「新型コロナ時代は(米失業率の悪化や米連邦準備理事会(FRB)の資産規模など)すべてが急速に展開している」と指摘し、急激なドル安予想を改めて主張した。
「他の主要中央銀行と比べてFRBの金融緩和は積極的」(UBSウェルス・マネジメント)。年初は4兆ドルほどだったFRBの資産規模は、新型コロナ対策で7兆ドル規模に急速に膨らんだ。あふれるドル、そして主要な先進国の通貨との金利差の縮小がドルの強みを後退させる。
米商品先物取引委員会(CFTC)に上場しているICEのドル指数先物の投機筋は16日時点で2018年5月以来約2年ぶりに売り越しに転じた。経済の相対的な強さや金利差などで買われやすかったドルだが、潮目は変わりつつあるようだ。
(NQNニューヨーク 戸部実華)