ニューヨーク金先物相場の上昇基調に拍車がかかっている。6月24日には約9年ぶりの高値を付けて話題となった。市場では心理的節目である1トロイオンス1800ドルを、近く超えるとの見方が優勢だ。背景には新型コロナウイルス「第2波」の懸念があるが、金と逆相関の動きを続ける米国の「実質金利」の低下も見逃せない。
■実質金利の低下が影響か
足元のニューヨーク金相場は新型コロナの感染拡大と各国中央銀行の金融緩和を手かがりに、4月中旬には1トロイオンス1788ドルまで上昇。その後は利益確定売りの影響で1700ドル付近の推移が続いたが、6月に入ると上昇基調を強め、24日には一時1796ドルと2011年11月以来の高値をつけた。1800ドルの大台に乗せるとの見方がにわかに強くなってきた。
※NY金先物の推移、1800ドルの大台に迫る
金価格が上がる理由として、米国で新型コロナウイルスの新規感染者が増え、安全資産としての需要が強くなっていることが挙げられる。だが市場関係者の間では別の指摘もある。名目金利から予想インフレ率を差し引いた実質金利の低下が影響しているとの見方だ。
■金の弱点が解消
米国では米連邦準備理事会(FRB)の大規模緩和で名目金利が押し下げられた。その後の巨額の財政出動、低金利政策の強化観測に加え、経済活動の再開を背景にした原油価格の回復などで予想インフレ率は上昇した。米国の実質金利は1日時点のマイナス0.52%程度から、23日時点のマイナス0.65%程度へとじりじりと低下した。
なぜ実質金利の低下が金の上昇につながるのか――。ニッセイ基礎研究所の上野剛志シニアエコノミストは2つの理由を指摘する。1つ目は名目金利の低下で、金利のつかない金の弱点が解消し、投資妙味が増していることだ。そして、インフレ期待で金など実物資産の魅力が相対的に高まることを、2つ目の要因とする。
金相場が過去最高値(1923ドル)を付けた11年9月を振り返ると、現在と同様に実質金利の低下が背景にあった。当時はリーマン・ショック後でFRBの量的緩和の影響などにより実質金利はマイナス圏で推移。米国債の格下げや欧州の債務不安で株価が調整する場面でもニューヨーク金相場には資金が流入した。
金相場の見通しについて、イタリア最大の銀行グループのインテーザ・サンパオロは「実質金利はいくつかの先進国でマイナスの状態が当面続くと予想されている」と指摘する。金相場の堅調な動きは当面続きそうだ。〔日経QUICKニュース(NQN)山田周吾〕