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フォートノックスに金はあるのか? 米金融最大のタブー、市場の波乱要因に(木村貴の経済の法則!)

【QUICK解説委員長 木村貴】スパイアクション映画007シリーズの第3作「ゴールドフィンガー」(1964年)は、そのタイトルが示すように、金を題材とした作品だ。悪役の億万長者ゴールドフィンガーは、とんでもない犯罪を企てる。米政府の備蓄する金塊の保管庫を襲撃し、貯蔵された金塊に放射能を浴びせて使い物にならなくする。それによって、自分が大量に保有する金の価値を高めるというものだ。

フォートノックスの金保管庫

フォートノックスの金保管庫(Wikipedia

ゴールドフィンガーが襲う金保管庫は実在する。ケンタッキー州フォートノックスにある米連邦政府金庫である。フォートノックスには軍の施設があり、そこに建てられた金保管庫はきわめて厳重に警備されていることで知られる。映画では、ある奇想天外な方法でこの警備を突破するが、実際には侵入は不可能に近いといわれる。

「誰かが盗んだかもしれない」

このフォートノックスが今、現実の世界で注目を浴びている。トランプ米大統領やその側近が、「フォートノックスに金はない」という古くからの噂を念頭に、保管庫の監査に前向きな姿勢を示しているからだ。

トランプ政権で政府効率化省(DOGE)を率いるイーロン・マスク氏は2月半ば以降、X(旧ツイッター)の複数の投稿で、保管庫に対する疑問を発信。金の存在を疑問視するミーム(ネット上の面白ネタ)を投稿し、「この金は米国民の財産だ。まだそこにあればいいのだが」とコメントした。また、調査をライブ配信するよう求めた。

トランプ大統領自身、2月20日に大統領専用機エアフォースワンの機内で「フォートノックスに行って、金塊があるか確認するつもりだ」と述べ、「もしなかったら、ひどくうろたえるだろう」と付け加えた。さらに同24日、ホワイトハウスで「我々は実際にフォートノックスに行って、金塊があるのか確かめるつもりだ。誰かが金塊を盗んだかもしれないからだ。大量の金塊をね」と語った

米政府は財務省を通じ、8134トンと世界最大の金準備を保有している。同省によれば、このうち過半の56%がフォートノックスにあり、他にコロラド州デンバー、ニューヨーク州ウエストポイントでも保管されている。この3カ所の保管庫には合わせて42の区画があり、そこで金塊を分けて保管している。残りの金塊は、ニューヨーク連邦準備銀行の地下にある米連邦準備理事会(FRB)の保管施設に貯蔵されている。

フォートノックスをめぐる疑念に対し、金準備を預かるベッセント財務長官は「毎年監査を行い、すべての金塊が存在し帳簿に合致している 」と強調している。

そうだとすれば、金が盗まれているかもしれないという主張は、事実無根な陰謀論にすぎないのだろうか。そうとは言い切れない。

監査の実態

貴金属アナリストのヤン・ニューエンハイス氏は2月21日、トランプ大統領宛の公開書簡で、「フォートノックスの『監査人』に騙されないように」と警告した。

ニューエンハイス氏は公開書簡でトランプ大統領に対し、監査を進めようとすれば、財務省から「監察総監室(OIG)が大手会計事務所KPMGと共同で毎年監査を実施しているので、新たな監査は必要ない」といわれるだろうが、それは事実を欺くものだとクギを刺した。

同氏は米財務省、造幣局、FRB、OIGから情報公開法に基づき入手したそれまで非公開だった文書に基づき、複数の調査をまとめた。それによると、以下のような不都合な事実が明らかになったという。

  • 規定の監査手順から逸脱した監査が繰り返し行なわれたが、そのような逸脱を防ぐための内部統制は機能していなかった
  • 多数の監査および分析報告書が紛失または破棄された
  • 数十年にわたり、金のかなりの部分が明白な理由もなく検証から除外されていた
  • 米政府はあらゆる手段を講じて監査に関する情報を隠蔽してきた
  • 監査後に保管庫の各区画に貼られた不正開錠防止の封印は、二度とはがすことはないはずなのに、何度もはがされている。OIGは宣誓証言の際にはこの問題を慎重に避け、別の機会には嘘をついていた

ニューエンハイス氏は公開書簡の締めくくりで、「現物金の監査は、特定の保管機関における金の存在に関する疑いを払拭するものであるはずです。しかし監査の表面下をのぞいてみると、米国の公式金準備の安全性について、安心よりも疑念をあおっていると結論せざるをえません」と厳しく指摘する。

そのうえで「新たな信頼性の高い監査により、米財務省の金塊がすべて物理的に存在することが証明できるかもしれません。しかし、作業はそこで終わってはなりません」として、さらに調査・報告すべきもう一つの問題があるという。それは「スワップ、リース、抵当、その他の形の再担保設定により、金塊に何らかの制約が課されていないかどうか」である。

100倍近くに高騰

フォートノックスの金に対する疑念は、他の専門家の間にもある。金融専門家で作家のジェームズ・リカーズ氏は今月、ユーチューブ番組とそれに関するXの投稿で、フォートノックスに金塊が存在するのはほぼ間違いないとしながらも、「より重要な問題は、リースされているかどうかだ」と指摘した。金自体は保管庫にとどめたまま、書面上の取引で民間金融機関などに貸し出され、何重にも又貸しされたり担保に入れられたりしている恐れがあるという。「トランプ氏やマスク氏がその疑問を投げかけるかどうかは疑わしい」と述べた。

投資家で作家のダグ・ケーシー氏も今月のインタビュー記事で「フォートノックスやニューヨーク連銀の金を掘り起こしたら、無担保の金はほぼ残っていないのでは」と述べた。万が一そうだったとしたら、「世界の金融システムが覆る」ほどの大問題となる恐れがあると指摘する。そのうえで、こう話す。「現時点では、金は1トロイオンス3000ドルでも買い続けるべきだ。一般の人々はまだまったく興味を持っていない。しかし近い将来、経済界にパニックが訪れたら、状況は変わるだろう」

映画でショーン・コネリー氏演じる007こと英スパイのジェームズ・ボンドは、フォートノックス襲撃が成功すれば「西側経済に混乱を巻き起こし、金の価格は暴騰する」とゴールドフィンガーの狙いを言い当てる。ゴールドフィンガーはうれしそうに、「控え目に見ても10倍だ」と笑う。

映画では007の活躍により、ゴールドフィンガーの野望はくじかれるが、映画公開当時の金価格が固定相場の35ドルだったのに対し、1971年のニクソン・ショックでの固定相場廃止を経て、今では3000ドル超えと、10倍どころか100倍近くに高騰している。

この金高騰はもちろん、ゴールドフィンガーの陰謀ではない。米政府自身が多額の財政赤字を通貨増発で埋め合わせてきたことによる、ドルの信認低下のせいだ。007も頑張ったかいがない。

米金融最大のタブーとされてきたフォートノックスの金に、万が一、何かが起こっていたら、専門家が懸念するように世界経済と金融市場に波乱を引き起こし、避難所として金がさらに買われるかもしれない。

著者名

木村貴(QUICK解説委員長)

日本経済新聞社で記者として主に証券・金融市場を取材した。日経QUICKニュース(NQN)、スイスのチューリヒ支局長、日経会社情報編集長、スタートアップイベント事務局などを経て、QUICK入社。2024年1月から現職。業務のかたわら、投資のプロに注目される「オーストリア学派経済学」を学ぶ。著書に「反資本主義が日本を滅ぼす」「教養としての近代経済史」ほか。


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