３月期決算企業の株主総会が一巡し、有価証券報告書の開示がたけなわを迎えている。新たな材料は少ないイメージがある有報だが、今年は注目点が多い。本決算の時点では新型コロナウイルスの感染拡大による具体的な影響がわかりにくかった企業も多かったが、有報では塩野義製薬（4507）がコロナによる人材確保リスクを開示し、ホンダ（7267）はコロナによる販売金融への影響や月初に起きたサイバー攻撃のリスクに言及した。経営に関する判断材料を提供している有報を読み解いてみるのも投資に役立ちそうだ。

■ソフトバンクG、リスクの認識と開示に積極的

有報には「事業等へのリスク」という項目がある。３月からは単なるリスクの羅列ではなく、経営者が経営環境や事業のリスクをどう認識しているか、その条件や対応策など充実した内容の記載を求められており、注目する投資家も増えそうだ。

ソフトバンクグループ（9984）は運用するビジョンファンドだけで業績、規制など11の項目にわたってリスクを開示した。コロナの影響については、世界の資本市場のボラティリティーが高まったり世界経済に悪影響が生じたりすることによる損害がファンドのリターンに影響を及ぼす可能性や、ファンド運営会社のモニタリング（監視）やデューデリジェンス（資産査定）などの機能に支障が生じる可能性などを挙げた。傘下の事業会社についてのリスクも開示するなど、他社と比べ記載量の多さが目立ち、リスクの認識と開示に積極的な印象を受ける。

■ソニー、映画や音楽分野でのリスク記載

ソニー（6758）はコロナについて製品の生産、開発、販売への影響のほか「新曲のリリースの遅れや世界的な広告活動の減少による悪影響を受ける可能性がある」「映画分野では、新作映画やテレビ番組作品の制作や公開スケジュールの遅れ、世界的な広告の減少による悪影響を受ける可能性がある」と映画や音楽分野でどのような事態が具体的なリスクとして想定されるかを記載した。

■塩野義、人材確保面でのリスクを指摘

塩野義は事業への直接的な影響だけでなく、コロナが人材確保面でのリスクとなる可能性を記載した。ポストコロナ時代の働き方や必要となる専門性の変化にタイムリーに対応できる柔軟な人材、環境変化を好機ととらえグループ経営を推進できる人材などを確保・育成できない場合には「競争優位性のある組織が実現できず、長期的には会社の業績に影響を与える可能性がある」とした。その上で人材育成プログラムや経営幹部育成策を行っていることを説明している。

■ホンダ、販売金融面やサイバー攻撃のリスクに言及

ホンダは生産や販売に与える影響のほか「失業率の上昇や今後の中古車価格下落などの見通しの変化に伴う顧客の信用リスクなどの増大は、クレジット損失の増加やリース残価損失の増加などの業績に悪影響を与える可能性がある」と販売金融面のリスクにも言及している。コロナ以外でも国内外の工場の生産や出荷中止をもたらした６月８日のサイバー攻撃に関し、類似の攻撃への対策を行っていることを記した。今回の攻撃による新たな影響や類似攻撃の影響があれば「ブランドイメージや社会的信用の低下、影響を受けた顧客やその他の関係者への損害責任、制裁金の支払い、生産活動の停滞や遅延」などグループの事業、業績に悪影響を与える可能性があることを記載した。

有報では21年３月期分から、どの部分に監査上のリスクがあると監査法人が着目したかを示す「監査上の主要な検討事項」を（有価証券報告書に添える）監査報告書へ記載することが義務付けられる。野村資本市場研究所の西山賢吾主任研究員は「経営のリスクがどこにあるかを判断する手掛かりになる」と期待する。「決算短信や統合報告書の内容が一層充実する中、速報性に欠ける有報の存在感は低下している」（岡三証券の松本史雄チーフストラテジスト）ことは否めなかったが、今後は短信の数字などには表れない情報が増えてくることへの期待も高まっている。〔日経ＱＵＩＣＫニュース（ＮＱＮ）高和梓〕

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