9日の東京株式市場でファミリーマート(監理、8028)株が制限値幅の上限(ストップ高水準)まで気配値を切り上げた。伊藤忠商事(8001)が8日、ファミマに対し1株2300円でTOB(株式公開買い付け)を実施し、完全子会社化すると発表した。子会社の経営のテコ入れや親子上場の解消を目的としたTOBが活発化するとの思惑が広がり、ファミマ株に続く銘柄候補を探す動きが活発化している。
■「完全子会社化」探し
ファミマへのTOB価格は8日終値(1754円)に31%のプレミアムが上乗せされた。競合のローソン(2651)株に対しても、同社の親会社である三菱商(8058)がグループ再編に動くのではないかとの思惑から買いが集まり、前日比で一時8%を超す上げとなった。ビックカメラ(3048)の子会社のコジマ(7513)は前日発表した2019年9月~20年5月期決算が減益だったものの、前場は一時10%高となった。
焼肉店「牛角」などを展開するコロワイド(7616)は9日、定食屋の大戸屋ホールディングス(JQ、2705)に対し、同社株の8日終値を約46%上回る3081円でTOBを実施し、連結子会社化を目指すと発表。新型コロナウイルスの感染拡大の打撃を受けた小売・外食産業では企業再編の兆候がみえてきた。
日経平均株価は新型コロナの感染拡大を受け2~3月に急落した。4月以降は急回復したが、投資家の資金は成長期待の高い銘柄に集中しており、国内景気に対する慎重な見方は根強い。
■思惑の敵対的TOB
岡三証券の松本史雄チーフストラテジストは「株式相場が急落すると(単純に株価だけを考えれば、一時的なキャッシュアウトとしての)買収コストは低下するため、親子上場の解消が積極的に検討されやすい」と指摘。「株価が低迷する上場子会社に対し親会社がTOBを掛けるとの期待が高まる余地が出てくる」と話す。
もっとも9日のコロワイド株はTOB効果の不透明感が意識され、朝高後は下落した。大戸屋HDはコロワイドのTOBの発表に対し、「現時点でコメントはないが、本日中に何らかの適時開示を行う予定だ」(広報部)としている。
敵対的TOBに発展する可能性があるとも一部では報じられているが、「業績が低迷する企業価値が低い企業の場合、敵対的TOBに至るかはかなり疑問」(東海東京調査センターの庵原浩樹シニアマーケットアナリスト)との見方がある。買収した企業が利益を生み出せない状況が続くと見込まれる場合には、「割高な買い物」になるリスクがあることにも留意が必要だろう。
■年初来で親会社よりパフォーマンスが劣る主な上場子会社
子会社 | 騰落率 | 親会社 | 騰落率 |
イオンファン(4343) | 51%安 | イオン(8267) | 6%高 |
コスモスイニ(JQ、8844) | 50%安 | 大和ハウス(1925) | 29%安 |
日野自動車(7205) | 40%安 | トヨタ(7203) | 13%安 |
航空電子(6807) | 34%安 | NEC(6701) | 23%高 |
八千代工(JQ、7298) | 33%安 | ホンダ(7267) | 12%安 |
JSP(7942) | 29%安 | 三菱ガス化学(4182) | 4%安 |
信越ポリマー(7970) | 21%安 | 信越化(4063) | 2%高 |
FDK(2部、6955) | 11%安 | 富士通(6702) | 27%高 |
コンテック(2部、6639) | 7%安 | ダイフク(6383) | 54%高 |
※左が子会社、右が親会社。%は9日前引け時点の年初来騰落率。
〔日経QUICKニュース(NQN) 長田善行〕
<金融用語>
敵対的買収(敵対的TOB)とは
買収者が、買収対象会社の取締役会の同意を得ないで買収を仕掛けること。敵対的TOBともいう。買収者は、対象会社の経営権を支配できる議決権を取得するために、総株主の議決権の過半数の取得を目指すことが一般的である。日本の金融商品取引法では、有価証券報告書を提出する義務のある会社の株式に対し市場外または市場内と市場外の組み合わせ等による買付けで株券等所有割合が3分の1を超える場合には、原則、公開買付け(TOB)の形で行わなければならない。買収者はTOBによって買収を仕掛けることが多いが、市場内での取得のみで議決権の過半数を取得するケースも見られる。 買収者は、対象会社の解散価値に注目して投資をするフィナンシャル・バイヤーと買収者の経営指導効果や事業のシナジー効果等によりもたらされる投資価値の拡大を目的とするストラテジック・バイヤーに大別される。