今回は、6月19日(金)・20日(土)の2日間で開催されたSBIアートオークションについてレポートする。出来高は、全体落札総額7億5345万7000円(落札手数料含む・以下同)、全体落札率は90.4%と、好調なセールとなった。コロナ対策の一環として、ウェブや電話での入札を利用するよう事前告知もあったが、会場はコロナ禍以前と同等の賑わいを見せることもあり、活気を帯びた2日間となった。
■1000万円を超える高額落札作品
本セールでは、落札金額1000万円を超える高額での落札作品が11作品あった。その上位には、草間彌生4作品、奈良美智3作品が含まれ、両作家の根強い人気が顕著に現れている。
最高額での落札となったのは、今回のオークションカタログの表紙を飾った作品で、奈良美智の代表作の一つである「あおもり犬」に似た白い犬のオブジェと犬小屋を組み合わせた立体作品Lot298「Dogs from Your Childhood」。落札予想価格4000~7000万円のところ、5290万円で落札された。
次に、草間彌生の代表的なモチーフ作品である「南瓜」のオリジナル作品が2作品続く。Lot293「南瓜(黄色)」(F4号、アクリル・キャンヴァス)は、落札予想価格3500~5000万円のところ、4140万円で落札された。 Lot294「かぼちゃ(赤色)」(F4号、アクリル・キャンヴァス)は、落札予想価格3000~5000万円のところ、3680万円で落札された。いずれも落札予想価格内での落札であったが、落札総額に大きく貢献する結果となった。
■落札予想価格を大幅に上回る
高額落札作品の中でも特筆すべきは、若手作家である井田幸昌による油彩・キャンヴァスの作品だ。今回は2作品の出品があったが、Lot315「End of today 7/3/2018-Home town sky」は、落札予想価格80-140万円に対して264万5000円、Lot316「Pig」は、落札予想価格200~300万円に対して1840万円と、いずれも落札予想価格を大幅に上回る価格での落札となり、会場を沸かせた。まだセカンダリーマーケットでの出品が少ない作家ではあるが、出品時には、常に予想価格を上回る価格での落札を見せており、今後の動向が大いに注目される作家の一人といえよう。
■戦後の日本を代表する書家
今回のレポートでは、戦後の日本を代表する書家である井上有一(いのうえゆういち,1916-1985)に焦点を当てる。井上有一は、「書」を現代芸術の文脈で表現することで、新たな書の世界観を確立し、国際的にも高い評価を得た作家である。中でも、一枚の紙に大筆で一文字のみを画く「一字書」を得意とし、多くの作品を残している。
今回、出品された作品は、縦長の和紙に墨で画いたLot277 「大賈深蔵」(127.5×58.5㎝)。
落札予想価格250~350円に対し、落札予想価格の上限に近い322万円で落札された。
本作品と同等サイズの井上の作品価格の推移を、2015~2020年のオークションデータを抽出したACFパフォーマンス指標で分析する。落札価格平均は、2015年から2020年にかけて緩やかな上昇トレンドで推移している。2015年は、落札価格平均が落札予想価格上限平均を上回り、その結果を受け、翌年以降は全体的に上昇していることがわかる。2017年にわずかに落ち込みをみせるも、2019年、2020年では300万円台に落ち着いている。また、落札中央値も200~300万円で推移し、安定した銘柄となっている。
次回、SBIアートオークションでは、会場を使用しないライブ配信型オークション「SBI Art Auction Live Stream」を8月に開催する予定でいる。コロナ禍を経て計画された形式で、従来のオンラインのみのオークションとは異なり、実際にオークショニアがオークションを執り行う中、動画配信を見ながら、PCやスマホの画面越しにオンラインもしくは電話でオークション参加ができるというもの。オークションとは縁遠かったアートファンが、今までよりも気軽に参加できる機会ができた。
コロナ禍を考慮した新たな施策が、顧客の購買行動や消費の変化、価値観やライフスタイルの変化に反応し、オークション市場にどのような影響をもたらすか注視していきたい。
(月1回配信します)
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※次回のSBIアートオークション開催予定は8月1日