ニューヨーク金相場が急伸している。先週だけで1トロイオンスあたりの上昇幅は80ドル超と上昇基調に拍車がかかった。勢いは週明け7月27日も止まらず、2011年9月6日につけていた過去最高値である1923.7ドルを約9年ぶりに更新した。欧州における復興基金の創設によるユーロ買い・ドル売りに米中対立の激化が重なり、金買いに勢いがついた。
■ドル安、米中対立、個人投資家
27日の8月物終値は、前週末比33.5ドル高の1931ドルだった。「先週初めの復興基金の創設が金急騰のきっかけ」とニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミストは話す。21日に欧州連合(EU)首脳が7500億ユーロの復興基金で合意すると、外国為替市場でユーロ高・ドル安が進行。これに伴いドルの代替通貨とされる金が買われた。上野氏は「ドル建てで取引される金先物の割高感がなくなり、ドル高という上値を抑える材料が払拭され、緩和マネーが急速に流入した」とみる。
最近の米中対立の激化も金相場には追い風となった。米国は21日付で、テキサス州ヒューストンの中国総領事館の閉鎖を要求し、その後、実際に閉鎖された。27日には中国の対抗措置で四川省の米国総領事館が閉鎖された。投資家のリスク回避姿勢が強まったことで、安全資産とも位置づけられる金に資金が流入した。
そもそも世界的なカネ余りや金利の低下で個人投資家の資金が金に流入しやすくなっている。英ロンドンを拠点に個人向けの金オンライン取引を手掛けるブリオンボールトによると、20年前半期の同社における新規顧客数は過去5年間の平均の3倍となっており、7月22日は金・銀・プラチナの取引量が創業以来3番目の多さだったという。
■11年当時と状況似る
かつての過去最高値、1923.7ドルをつけていた11年9月。金相場上昇には、物価と比較した金利の水準である実質金利の低下が影響していた。リーマン・ショック後の米連邦準備理事会(FRB)による量的緩和により米国の実質金利はマイナス圏で推移。金利のつかない金の弱点が解消したうえ、インフレ期待で実物資産の魅力が増し、金投資が活発になった。現在、米国の実質金利は過去最低水準で推移しており、11年当時と状況は似ている。
ただ11年9月と現在では株式相場との関係が異なると楽天証券経済研究所の吉田哲コモディティアナリストは指摘する。11年の9月ごろは欧州債務問題や米国債格下げを巡る不安から主要株価指数は下落し、マネーが金先物に逃避する「株安・金高」だった。一方、現在は株式相場が堅調に推移するなか、株高と実体経済との乖離(かいり)への警戒感からも金先物が買われる「株高・金高」だ。楽天証券の吉田氏は「株価が下落すれば金相場上昇の支援材料にもなり得る」と話し、当面は底堅い金相場が続くとみている。〔日経QUICKニュース(NQN)山田周吾〕
<金融用語>
リーマン・ショックとは
2008年に米国の投資銀行大手リーマン・ブラザーズが負債総額6000億ドル超となる史上最大級の規模で倒産したことを契機として発生した世界的な金融・経済危機のこと。 2001年以降、米国政府が低所得者を対象とした高金利住宅ローン「サブプライムローン」の融資基準を緩和し、サブプライムローンを組み入れた証券化商品が多数発行され、投資家の購入も加熱化する証券バブルが発生していたが、地価の下落とともに2007年以降、借り手側のサブプライムローンの返済率が滞り始めると金融機関などが次々に損失を計上するサブプライムローン問題が表面化。 米国の金融機関のなかでもサブプライムローン関連のCDS(CreditDefaultSwapクレジット・デフォルト・スワップ)の多額の損失を計上したリーマン・ブラザーズが米連邦破産法第11条の適用を申請し、2008年9月15日に倒産。さらに多くのCDSを扱い同じく経営危機にあった米保険会社大手AIGに対する連鎖倒産への懸念や、金融機関救済を巡る政府対応の混乱も市場の不信感をあおり、世界的な信用収縮と株価暴落へと広がっていった。