8月6日のニューヨーク商品取引所(COMEX)で金先物の中心限月12月物は一時1トロイオンス2080ドル台と9日続けて過去最高値を更新した一方、銀先物の9月物は1トロイオンス29ドル台と約7年半ぶりの高値をつけた。昨年末と比べた上昇の勢いは銀が58%高と金の35%高を上回る。工業用途が広い銀は次世代通信規格「5G」の普及や、米大統領選を優位に進めるバイデン氏の政策が追い風となっている。
ソシエテ・ジェネラルの6日付リポートによると、現物の金を裏付けに持つ金上場投資信託(ETF)による世界の保有残高は7月末時点で合計3350トンと前月末から4.6%増えた。これに対し銀のETFは10.9%増の2万6982トンと一段と高い伸びだ。同社のマイケル・ヘーグ氏は「金は売り持ち高も増えているが、銀は工業向けの需要増を見込む資産運用大手が買い持ちを増やす傾向にあった」と語る。
銀の工業用需要は全体の約5割とされ、コロナ禍で低迷した製造業が中国や欧米で持ち直していることが買いを誘っている。業界団体シルバー・インスティチュートは「5Gの本格普及で銀は重要な役割を果たす」と指摘する。
銀は半導体の集積回路やシリコン基板、パソコンやスマートフォンの電子部品など用途が広い。5Gに伴いあらゆるモノがネットにつながるIoTが普及すれば、電子部品用の銀の需要は増える。貴金属取引コンサルタントのマット・ワトソン氏は「5G関連での銀の需要は2025年までに今の3倍に高まる」とみる。
「米大統領選で民主党候補のバイデン氏が当選すれば、銀の需要が一段と強まる可能性がある」(シティグループ)との見方もある。バイデン候補は環境政策として太陽光発電への投資拡大や、35年までの排ガスゼロ計画に伴う電気自動車(EV)開発を掲げる。銀は太陽光パネルに使われ、自動車の電子部品向けもEV移行で需要が高まると予想される。
一方で金の実需は減りつつある。国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシルによると、4~6月期の世界の金の宝飾需要は前年同期比53%減った。金が高くなりすぎて、敬遠されているようだ。調査会社リフィニティブによると、金需要で世界首位の中国が低調で、2位のインドの宝飾需要は20年上期に前年同期比64%減った。
世界的なカネ余りと実質金利の低下を背景に、貴金属など国際商品を投資先として選択する流れは続きそうだ。金と銀のどちらに資金を振り向けるべきか。「最高値圏にある金は相場の調整も想定され上値が重くなるリスクがある。銀は実需の強さが伴うこともあり、一段の上昇余地が見込める」(ジュピター・アセット・マネジメント)とみる投資家が増えている。【NQNニューヨーク=古江敦子】