8月12日の外国為替市場でニュージーランド(NZ)ドルが下落した。NZ準備銀行(中央銀行、RBNZ)は同日、量的金融緩和策の拡大を決め、通貨安志向を鮮明にした。9月に総選挙を控えるNZは政治の安定性に着目した買いが入りやすく、先高期待を強める投資家は多いが、中銀の思わぬ緩和姿勢が盲点となった。
■マイナス金利の導入も?
日本時間の午前11時、NZドルの対円相場は下げ足を速め、一時1NZドル=69円78銭近辺と、前日17時時点に比べ33銭のNZドル安・円高水準を付けた。対米ドルでも下げ、主要通貨に対してNZドルを売る動きが広がった。
きっかけになったのがRBNZによる量的金融緩和策の拡大の決定だ。同日、金融政策決定会合を開いたRBNZは政策金利を過去最低の年0.25%で据え置く一方、新型コロナウイルスの影響で3月下旬に導入した大規模資産購入プログラムで、NZ国債などを買い入れる上限金額を従来の年間600億NZドルから1000億NZドルに増やすと発表した。
声明文では「世界やNZ国内の景気回復は新型コロナの動向に依存する不確実性の高い状況にある」と指摘。下押し圧力がくすぶる景気を支えるため追加の金融緩和策を積極的に打ち出すとし、外貨建て資産の購入も選択肢の1つと言及した。NZでは以前からマイナス金利の導入観測があるが「思ったよりも近い将来に導入するのではないかとの受け止めが広がった」(ソニーフィナンシャルホールディングスの石川久美子シニアアナリスト)といい、NZドル売りを誘った。
■上値追いは難しい
これまでNZドルは、世界景気の持ち直し期待を背景に投資家心理が改善するにつれ、上値を切り上げてきた。早い段階から国境封鎖や都市封鎖を進め、新型コロナの感染を押さえ込んできたことが大きい。そうした手腕が評価されてアーダーン首相の支持率は上昇傾向にあり、9月の総選挙では同氏率いる与党労働党の躍進が見込まれている。岡三オンライン証券の武部力也投資情報部長は「政治の安定性は買い安心感につながり、投資家のマネーを集めやすい」と話す。
ただ、NZドルの一段の上値追いは難しいとの見方が出ている。NZは主要20カ国・地域(G20)のメンバー外。為替介入や外貨建て資産の購入に制限はなく、一段と景気が冷え込めば、G20の加盟国である日銀などに比べ、より踏み込んだ緩和策を打ち出すことも可能だ。
さらにアーダーン首相は11日、102日ぶりにNZで新型コロナの市中感染が判明したと発表。12日から再び行動規制の導入を始めた。世界で続く新型コロナの感染拡大はNZの主要輸出品である乳製品の需要にも影を落とす。各国で飲食店の本格稼働が見込めず、乳製品相場の指標であるGDT(国際乳製品貿易)価格指数は下落基調をたどる。
外為市場ではNZドルを国の鳥の名前にちなんで「キウイ」と呼ぶ。外敵の脅威にさらされて保護活動を余儀なくされている国鳥と同様に、通貨「キウイ」の行く手を阻む材料も山積しつつある。〔日経QUICKニュース(NQN)末藤加恵〕