11月の米大統領選まで2カ月半を切るなか、トランプ大統領が支持率で巻き返しを狙う。8月24~27日の共和党全米大会に先駆け、23日に「米国第一主義」を強化した公約の骨格を発表した。株高につながっている米食品医薬品局(FDA)によるコロナ治療法の緊急使用認可も、トランプ氏が圧力をかけたとの見方が浮上する。そんな中でも24日の米長期金利は低位で安定した。トランプ氏の劣勢はこのまま続くのか。米政治を巡る不透明感は強まるばかりのようだ。
■「科学を『政治化』する危険な行為」
「トランプ大統領は社会の安全より政治目標の達成を優先し、FDAにコロナの血漿(けっしょう)療法を認可させた」。米生化学・分子生物学会(ASBMB)は23日付の声明でそう批判した。血漿療法は現時点で臨床検査の結果待ちでコロナ療法として「安全かつ有効」とはまだ言い切れず、同学会は今回の治療法の認可を政治的圧力が働いたとみる。さらに声明は「トランプ氏は、医療当局がコロナ治療法の認可を遅らせることで自身の再選を妨害していると言うが、根拠がなく、科学を『政治化』する危険な行為だ」と指摘した。
現職大統領による新たな治療法の認可が、選挙に向けた支持率獲得を狙ったと受け取られるのも無理はない。CBSニュースとユーガブが20~22日に実施した最新の世論調査によると、米大統領選でのトランプ氏の支持率は42%と野党・民主党候補のバイデン前副大統領の52%との差が開く。CNBCニュースのストラテジスト調査では20人中14人がバイデン氏の勝利を見込むなど、トランプ氏の再選の見込みは一段と薄れてきた局面にあった。
■「現時点で結果の見極めは難しい」
とはいえ先行きは不透明だ。ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティチュートは、1928年からの米大統領選を振り返り「選挙前の3カ月間に米株式相場が上昇していれば、8割以上の確率で現職大統領が勝利してきた」と指摘する。バイデン政権が誕生すれば、急進左派のエリザベス・ウォーレン上院議員が財務長官に指名されると目されており「法人増税やトランプ時代に緩和された金融規制が再び強化されるとみられ、投資家の支持を受けにくい」(ING)との声もある。
調査会社ギャラップは「トランプ氏の支持率は8月中旬に42%と低いが、人種問題が激化した6月から改善傾向にある」と指摘する。経済対策への支持(48%)が寄与しているようだ。
米債券市場では「大統領候補のディベート(討論)などで流れが変わる可能性はあり、現時点で結果の見極めは難しい」(アクション・エコノミクスのキム・ルパート氏)と声は多い。24日の米債券市場で10年物国債相場は反落し、利回りは前週末比0.02%高い(価格は安い)0.65%で終えた。金利は小幅に上昇したが0.6%台にとどまる。コロナ治療法の緊急認可で投資家心理が上向いたものの、米大統領選の不透明感は拭えない。追加の経済対策の与野党協議も棚上げのままで、安全資産である債券を売る動きに広がりはみられない。
(NQNニューヨーク=古江敦子)
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