著名投資家ウォーレン・バフェット氏による商社株への投資が明らかになった8月31日、東京株式市場で日経平均株価の上げ幅は400円を超えた。「万年割安」といわれる商社株を「オマハの賢人」が選んだ意義は大きい。米国株に比べてパフォーマンスが見劣りしている日本株買いの号砲になるかもしれない。
■割安で放置されがちな商社株
商社は資源関連の事業が多く、資源価格の変動に業績が左右されやすい。このリスクがつきまとうため商社株は利益水準に比べて割安に放置されがちだった。今回、バフェット氏の投資が明らかになった5銘柄をみると、伊藤忠(8001)を除く、丸紅(8002)、三菱商(8058)、住友商(8053)、三井物(8031)の4社はPBR(株価純資産倍率)が割安の目安とされる1倍を下回っている。吉報が飛び込んだ31日、この5銘柄はもちろんそろって上昇した。
商社株が割安株に陥りがちな理由のもう1つは、資源を含めて多岐にわたる事業を世界で展開し、外部から経営実態が分かりにくいためだ。だが、バフェット氏の考えは逆だ。商社への投資を発表した資料に、バフェット氏は「5つの商社は世界中に多くの合弁事業を展開しており、今後増える可能性もある。将来的な利益が期待される」との言葉を残した。幅広いビジネスの芽に期待を寄せているというわけだ。
このところ、株式市場では、バリュー(割安)かグロース(成長)かという投資対象を巡る議論が盛んになされてきた。31日は前場時点で、東証株価指数(TOPIX)バリュー指数が2%高と、同グロース指数の1.69%高を上回った。著名投資家の買いがバリュー株投資を勇気づけたかのように、商社と同様に割安株とみなされるみずほFG、三菱UFJ、三井住友FGのメガバンク株がそろって上昇した。
■日本株も割安に放置
視点を広げると「世界の中でも日本株は割安に放置された銘柄が多い」(ニューバーガー・バーマンの窪田慶太・日本株式運用部長)。ファクトセットによると、米国株はPBRが2.7倍で、PER(株価収益率)は33倍を超えるが、日本株のPBRは1.2倍、PERは23倍程度だ。
バフェット氏は、大きく値下がりした株式を将来の上昇を見込んで投資するバリュー投資の神様だが、2019年には米アマゾン・ドット・コムに投資するなど、割高なハイテク株への“浮気”が発覚した。今回、原点に立ち返ったようなバフェット流の商社株買いは、海外マネーが日本株に向かう呼び水となる可能性さえ秘めている。〔日経QUICKニュース(NQN)矢内純一〕
<金融用語>
ウォーレン・バフェットとは
米国の著名な投資家。ネブラスカ州オマハに居住していることから「オマハの賢人」とも言われる。 投資先企業を選定する際は、売上高や利益といった業績や資産、負債などの財務状況を重視する。投資哲学は、企業の事業内容がシンプルで分かりやすいこと、長期的視点で良い業績を収められると予想されることなどがある。自身の投資哲学を満たす企業があれば集中して多額の資金を投資。投資額が巨額のため、ウォーレン・バフェットの投資に関する発言や投資先企業の情報は世界の金融市場に大きな影響を与えている。 会長兼CEOとして投資会社BERKSHIRE HATHAWAY INC.を経営し、損害保険および再保険、貨物鉄道輸送など多様な事業を手掛けている。