今週に入り、にわかに強まった商社株への物色。著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる米投資会社による買いだけでなく、商品市場からも資源高という追い風が吹いている。ただ、足元で激化しつつあるオーストラリア(豪)と中国の対立には用心が必要だ。
■中国の経済回復が鉄鉱石をけん引
たとえば、鉄鉱石。指標となる鉄分62%の豪産の中国向け価格鉄鉱石は5月に入って上昇基調を強め、8月下旬には一時1トン130ドル近くと、2014年1月以来ほぼ6年7カ月ぶりの高値を付けた。新型コロナウイルスの感染拡大によるブラジル鉱山での操業停止が供給不安につながると懸念された時期もあったが、足元では経済の回復を目指す中国での大規模なインフラ投資や、自動車の販売促進策に伴う実需の増加が鉄鉱石相場をけん引している。
商社のなかでも資源事業が業績に占める比率が高い三井物産(8031)は、2021年3月期の連結純利益(国際会計基準)を前期比54%減の1800億円と大幅減益を見込む。ただ、市場予想の平均(QUICKコンセンサス、8月24日時点)は同40%減と、減益幅は小さくなるとみられている。鉄鉱石価格の持ち直しが業績を支えるという見方は少なくない。
■豪中対立は商社に逆風
一方、中国とオーストラリアの関係悪化は火種だ。新型コロナを巡る不信感に加えて香港や南シナ海問題と、今年に入って懸案事項は増えるばかり。中国は豪産牛肉の輸入一部停止や、豪産ワインを対象にした反ダンピング(不当廉売)調査に動いており、鉄鉱石などの輸入制限が強まらないか懸念する向きもある。
「オーストラリアと中国は経済的には一蓮托生(いちれんたくしょう)でも外交や安全保障の観点からは米国寄りに傾きやすく、足元で豪中関係は刻々と悪化している」(第一生命経済研究所の西浜徹・主席エコノミスト)。米中対立に加えて、豪中対立の激化が貿易停滞につながれば、商社に強烈な逆風が吹くことになる。
※商社株を含む業種別東証株価指数(TOPIX)「卸売業」と日経平均株価(2019年末を100として指数化)
「景気回復という前提に立てば、商社株は割安という判断になるかもしれないが、なぜほかのバリュー株ではなく、資源価格にも左右されやすい商社株を買うのか明確には理由が分からない」(岡三証券の松本史雄チーフストラテジスト)という声もある。バークシャーは日本の商社株について、最大9.9%まで持ち分を高める可能性があるとも示唆している。1日もまた商社株への買いが続いている。〔日経QUICKニュース(NQN)尾崎也弥〕
<金融用語>
QUICKコンセンサスとは
証券会社や調査会社のアナリストが予想した各企業の業績予想や株価レーティングを金融情報ベンダーのQUICKが独自に集計したもの。企業業績に対する市場予想(コンセンサス)を示す。一方、「QUICKコンセンサス・マクロ」は、国内総生産や鉱工業生産指数など経済統計について、エコノミストの予想を取りまとめたものをいう。 QUICKコンセンサスを利用したものとして、QUICKコンセンサスと会社予想の業績を比較した「QUICK決算星取表」や「決算サプライズレシオ」、QUICKコンセンサスの変化をディフュージョン・インデックス(DI)という指数にした「QUICKコンセンサスDI」などがある。また、「QUICKコンセンサス・プラス」は、アナリストの予想対象外の銘柄に会社発表の業績予想などを採用して、国内上場企業の業績予想を100%カバーしたものをいう。