【日経QUICKニュース(NQN)須永太一朗】外国為替市場で円買い圧力がじわりと強まっている。9月21日の海外市場では円の対ドル相場が1ドル=104円ちょうど近辺と半年ぶりの円高水準に上昇。米国の追加経済対策を巡る協議の難航や、欧州での新型コロナウイルスの感染再拡大など、円以外の主要通貨で売り材料が相次いでいるからだ。菅義偉政権が発足した16日以降、金融・財政政策の実効性を試そうとする投機筋の仕掛け的な円買いもみられる。23日の東京市場は105円台前半に戻しているが、投機筋の一部はユーロ買いから円買いへと主戦場を移しつつある。円は一段と水準を切り上げるかどうかの分岐点に差し掛かっている。
■1ドル=104円台に上昇
米商品先物取引委員会(CFTC)によると、15日時点のシカゴ通貨先物市場でヘッジファンドなど投機筋を示す「非商業部門」の対ドルでの円の買い持ち高は5万360枚と、約1カ月半ぶりの多さになった。差し引きでも2万2889枚の買い持ち超過で2週ぶりに増加した。一方、ユーロは対ドルで17万8576枚の買い持ち超過だ。引き続き高水準だが、過去最高だった8月25日時点からは2割近く減った。新型コロナの感染再拡大によるユーロ圏景気の先行き不安や、英国と欧州連合(EU)の自由貿易協定(FTA)交渉の不透明感から、投機筋はユーロよりも円の先高観を強めて資金を移している。
菅政権の発足と同じ16日、円相場は1カ月半ぶりに1ドル=104円台に上昇した。菅政権は安倍晋三前政権が進めた金融・財政政策の維持を掲げるが、その実効性を投機筋は試しにかかっている。日銀の金融政策決定会合後に黒田東彦総裁が記者会見をしていた17日夕に104円台後半に上昇した。黒田総裁は「政府としっかり連携しながら政策運営を行っていく」「為替レートはファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を反映して安定的に推移することが望ましい」との認識を示していた。21日の海外市場では104円ちょうど近辺に上昇。日本は19~22日に4連休で取引量が減り、投機筋がより仕掛けやすかった面もある。
■再び円高けん制か
円相場は直近で付けた1ドル=104円台で引き続き踏みとどまれるかが注目点だ。ただ、22日以降の円売り・ドル買い戻しの動きをみて、そう簡単には一段高にならないとの見方が多い。
政権が代わっても、政府・日銀が連携して対応することへの安心感が国内の市場関係者の間では根強いからだ。前回1ドル=104円台半ばまで円高が進んだ7月末、財務省と日銀、金融庁は国際金融資本市場に関する情報交換会合を開き、会合後に財務省の岡村健司財務官が「市場の安定は極めて重要であり、緊張感を持ってその動向を注視していくことは重要だ」と発言。円買いの動きが一服した。
岡村財務官は7月20日の就任直後に動いた形で、円高けん制に積極的とみなされている。「発足直後の菅政権が極端な円高を容認するとは考えにくく、円の上昇局面では再び何らかの対応に動くだろう」(岡三オンライン証券の武部力也氏)。菅首相は23日昼に首相官邸で日銀の黒田総裁と会談した。金融政策の在り方について意見交換しているとみられるが、市場ではこれまでの政府・日銀の動きについて安心材料と受け止められている。
■国内投資家の円売りも
相場水準に注目した国内投資家の円売りも出ている。21日以降「金融機関や年金基金が(為替ヘッジを付けない)オープン外債への投資を活発化させている」(国内銀行の為替担当者)。個人投資家の逆張りの円売り・ドル買いも盛り上がってきた。QUICKが23日に算出した18日時点の外国為替証拠金(FX)8社合計(週間)の建玉状況では、対円のドル買い比率が約2年半ぶりの高水準になった。
※対円のドル買い比率(QUICKまとめ)
22日の国連総会の一般討論演説でトランプ米大統領が新型コロナ感染拡大の対応などを巡って中国を批判。29日にはトランプ氏と、大統領選挑戦者のバイデン氏が対峙するテレビ討論会も始まる。海外では今後も不安材料が山積しリスク回避の姿勢は強まりやすいが、国内勢の逆張り投資の意欲が旺盛なだけに、円相場は意外なしぶとさを見せそうだ。
<金融用語>
外国為替証拠金(FX)とは
外国為替証拠金取引。FXはForeign Exchangeの略称。一定の証拠金(保証金)を業者に預託し、レバレッジをかけて、主に為替変動による差金決済で外国為替(外国通貨)を売買する取引のこと。レバレッジ効果により、少ない証拠金(保証金)を担保に、その何倍もの金額で売買ができるため、大きな収益を得るチャンスがあるが、半面、大きな損失を招く可能性もある。金融商品取引法に規定されるデリバティブ取引の一種で、金融商品取引法に基づく登録を受けた業者のみ仲介が許される。 FX業者と投資家が直接取引する「店頭FX取引」、FX業者が仲介し、取引所で取引される「取引所FX」がある。また、ポジションをもつ期間や取引の頻度などによって、スキャルピング(超短期売買)、デイトレード(短期売買)、スイングトレード(短中期売買)、ポジショントレード(長期売買)など様々な取引方法がある。