【日経QUICKニュース(NQN)秋山文人】9月中旬に訪れた円高の波はいったん後退したが、市場ではなお円上昇への警戒感が緩まない。1ドル=104円の水準をキープしないと円高が加速し、100円の大台を超えるのではないかとみる市場参加者もいる。菅義偉政権では100円を超える円高は許容しないのではないかとの見方も浮上しており、米大統領選も控える中、参加者は神経質になっている。
■まず104円をキープ
「政府は100円を強く意識しているのではないか」。こんな思惑が市場の一部で聞こえてきた。心理的には大きな節目とみなされ続けてきたわかりやすい水準だ。だが、根拠のない数字ではない。
政府が念頭にしているのが国内輸出企業の採算レートだ。内閣府がまとめる2019年度の企業行動に関するアンケート調査によれば、上場する輸出企業の採算レートの平均が1ドル=100.2円。この水準を保つことが輸出企業の収益環境を安定させるために必須となっている。それゆえ政府にとってもこの水準が円の上値として意識されやすい。
足元の円相場は105円台半ばで、100円にはまだ距離があるとも思えるだろう。だが100円よりも円安の水準で推移するためにはまず104円をキープする必要があると外為市場関係者はみている。
■なぜ104円が重要なのか
「二の丸」ともいえる104円を巡る攻防が9月21日、繰り広げられていた。
日銀の金融政策決定会合が開かれた17日、夕方の黒田東彦総裁の記者会見中に投機筋が円買いを仕掛ける場面があった。104円台半ばまで円高が進んだことで、市場では同日夜にも財務省、日銀、金融庁の3者会談が開かれるのではないかとの思惑が浮上した。これまでたびたび円高をけん制する場として使われてきたからで、今回もあるだろうと読む市場参加者は少なくなかった。
ところが実際は開かれなかった。菅首相とトランプ米大統領の電話協議を20日に控えていたこともあり、米政府を刺激しないようにしたとみられる。けん制がなかったことで勢いづいた投機筋の買いに押され、21日に円相場は104円ちょうどまで上昇した。
もっとも、104円近辺でもみ合った後は急に104円台後半まで下落した。割高になった円を売り、割安になったドルを買う動きが広がったためだが、何度も104円超えをトライする動きを押し返す岩盤のような円売りに「あたかも政府をおもんばかるような動き」との声すら市場から聞こえてきた。
ではなぜ104円が重要なのか。104円を超えて円高が進むと、連鎖的に円買いが進みかねない。「通貨オプション取引に絡む円買いの指し値注文がずらりと並んでいる」(外為市場関係者)ためだ。何かの拍子に一気に値が飛び、100円の「スガライン」をうかがう展開になるのではとの警戒心が高まっている。
そのきっかけとなりかねないのが、あと1カ月あまりに迫った米大統領選だ。現職のトランプ氏と民主党のバイデン候補で支持率に明確な差は出ていない。さらにトランプ氏が勝てば米中関係の悪化、バイデン氏なら法人税引き上げによる企業収益の悪化など、どちらが政権を握ったところでも相場のボラティリティー(変動率)がいや応なく高まる。ちょっとした動きが円買いの連鎖を招き、円が急騰しかねない環境だ。円が乱高下した4年前の大統領選での相場はまだ記憶に新しい。
ひとまず9月の四半期末は無難に過ぎそうだが、政府関係者も市場関係者も、頭から100と104の数字が消えない日々が当面続く。