SDGs(持続可能な開発目標)を切り口とした投資が中小型株へと広がりをみせている。8月には国内公募の追加型株式投資信託として国内初といわれるSDGs関連の中小型株投信「いちよしSDGs中小型株ファンド」が登場した。SDGsの投資魅力や銘柄の選別方法 についていちよしアセットマネジメントの大川恒ファンドマネージャーと、高橋佑輔ESGアナリストに聞いた(関連記事:新規の設定相次ぐESG・SDGs投信、注目は中小型企業へ)。
――SDGsに取り組む企業といえば時価総額が大きい大型株が主流ですが、中小型株に着目した理由は
高橋氏「SDGsが生み出すビジネス機会の規模は、食料・農業など4つの分野の合計で年間12兆ドル超といわれている。この成長分野と、中小型株の高い成長性の2つを享受できるからだ。主要なESG(環境・社会・企業統治)指数で中小型株の採用が増えている中、ボトムアップ・アプローチにより株式市場で注目が集まる前にいち早く有望銘柄を発掘して収益の最大化を目指す。ファンド名で『SDGs』を謳った中小型投信としては国内初だ」
――目に見えにくい企業のSDGsの取り組みをどのように評価するのですか
大川氏「同じいちよしグループの調査機関であるいちよし経済研究所の協力のもと、同社の企業調査力を活用していく。まず、当社(いちよしアセットマネジメント)にていちよし経済研究所の調査対象の約500銘柄の中から、独自のESG評価でスクリーニングを行う。そこで抽出された銘柄群について、同研究所において各銘柄の担当アナリストがSDGs課題への取り組みや意欲、収益性など定性的な観点から絞り込む。各銘柄を日ごろから詳細に取材しているアナリストだからこそ、目に見えにくい企業の取り組みをしっかりと評価できると考えている」
高橋氏「ESGスクリーニングでは会社の現在の競争力に影響を与えかねない『レピュテーション(風評)』リスクをESGの観点から測ることに重点をおいている。SDGsスクリーニングでは将来の会社の収益を推し量る上で、想定している環境変化や見通しが適切かという視点に立って、銘柄を厳選する。投資後も企業と継続的にエンゲージメント(対話)を行い、SDGsの分野における課題提起及びその情報開示を働きかけている」
――ポートフォリオの構成銘柄数や、SDGsに取り組む中小型株を挙げると
高橋氏「40~50銘柄で構成される。例えば、印刷インキ大手のサカタインクス(4633)は植物由来のボタニカルインキも取り扱っており、コンビニエンスストア等の食品包装などで需要が増えている。そのほか、当ファンドが投資するマザーファンドでは、 家庭での食材廃棄量の削減につながるような商品開発に注力するオイシックス・ラ・大地(3182)、資源の再利用をしているアサヒホールディングス(5857)などを組み入れている(5月末時点)」
――当初設定額は38億円でしたが、直近で約80億円に増加しています
高橋氏「SDGsやESGに対する個人投資家の関心が高くなっている。本格化していくのはこれからで、企業が社会課題から事業利益を出していくという流れが加速する中で、さらに浸透していくだろう。いずれはSDGsなどと銘を打たなくても、それが当たり前の世の中になっているのではないだろうか」
――コロナ渦という理由もありますが、ESGのうち雇用を含む「S(社会)」に対して株式市場の注目度がにわかに高まっているのはなぜでしょう
大川氏「成長産業ほど『S』への対応がしっかりしていないと、成長の機会を逸してしまう可能性があるからだろう。例えば人手不足が叫ばれるIT業界では、『デジタルトランスフォーメーション(DX)』に伴う需要増が期待されているが、賃金への十分な成果反映、健康経営、人材ダイバーシティなど、企業の『S』の分野が充実していなければ、優秀な人材を競合に奪われてしまう。そうすると、需要はあったとしてもそれをこなせる人員がいないため思うように売り上げを伸ばすことができず、DXの恩恵を十分に受けることができない。一見関係が薄そうな『S』もトップラインの成長に密接に関わっているといえるだろう」
(QUICK Market Eyes 川口究)
<金融用語>
SDGsとは
Sustainable Development Goals (持続可能な開発目標)の略称。17のゴールと169のターゲットから構成される世界共通の目標で、地球上の誰一人として取り残さない平和で豊かな社会の実現を目指す取り組みのこと。貧困や飢餓、福祉や教育、人権、環境、エネルギー、経済的不平等など国際社会の包括的な課題解決に向けて、すべての国連加盟国が行動を起こすことが求められている。2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に盛り込まれた。