【日経QUICKニュース(NQN)藤田心】日銀が10月1日に発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、事業計画の前提となる2020年度の想定為替レートは大企業・製造業で1ドル=107円11銭だった。前回6月調査(107円48銭)からほぼ横ばいながら、この間じり高となった円相場の実勢レートは105円台半ばとなっている。今後売りが増えても想定レートが下値として意識され、円の下落余地は限られそうだ。
■想定レートが下値目安に
日銀短観では企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業・製造業でマイナス27と6月調査のマイナス34から改善した。市場予想の中央値(マイナス23)を下回ったが、業況判断を巡っては全体的に予想通りの結果との受け止めが多かった。
一方、想定レートについては「(輸出企業にとって)甘めの設定」(ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏)との指摘があった。確かに円は9月21日に104円前後まで上昇し、現状も想定レートより2円近く円高にある。
輸出企業は想定より円高になると、一段高となってコストが膨らむのを避けようと円の手当を急ぐケースがある。だが「この程度の(想定と実勢の)差で、慌てて円買いに走るのは考えづらい」(みずほ証券の鈴木健吾氏)との声もあった。
こうした見方の背景には、コロナ禍で混乱した3月を乗り切った後の4月以降、円がおおむね1ドル=104~110円台の狭い範囲での動きを続けていることがある。みずほ証の鈴木氏は「このレンジを抜けないと円買いが加速するのは難しい」とみる。一方で107円台まで下落すれば想定レートをこの水準に置く輸出勢から買いが入り、円は底堅さが増すこともありうる。
■様子見の市場参加者
円相場が動かないとの見方が広がっているのは、米大統領選の不透明感から市場参加者が動くに動けないことも一因だ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏は、29日の米大統領候補のテレビ討論会について「予想通りの泥仕合」と振り返る。16年の大統領選におけるトランプ氏のまさかの勝利が教訓となり、「今回も結果判明後の相場のリアクションは不透明で持ち高を傾けにくい」という。
きょうから20年度下半期に入った東京市場だが、東京証券取引所でシステム障害が発生し、全銘柄の売買を終日停止するという波乱の幕開けとなった。もともと米大統領選まで動きを潜めつつあった市場参加者は、期初の出ばなもくじかれて一段と様子見姿勢を強めている。想定レートであり、4月以降のレンジ相場の中心でもある107円台は、ある種のアンカーとなって円を下支えしているようだ。
<金融用語>
日銀短観とは
日本銀行が四半期に一度発表する「主要(全国)企業短期経済観測調査」のこと。 日本銀行という金融政策当局自身が調査し、直接、各企業の経営者に業況感を問うマインド調査であり、しかも、サンプル数が十分にあり、回収率も高いので、数多くある経済指標の中でも特に注目されている統計である。 そもそも、景気の方向は、経済に参加する各主体(企業や家計)の気持ちが決定すると言っても過言ではない。数多くの経営者が「物が動き始めたからちょっとリスクはあるが設備投資を拡大しようか」と考えていれば、先行きの景気はよくなるだろうし、逆に「手控えよう」と思う経営者が多いと、景気はスローダウンするはずである。 そうした企業や家計の気持ちの微妙な変化をいち早く察知するため、エコノミストは経済指標に首っ引きになり、企業アナリストはインタビューに奔走している。つまり、日銀短観ほど経済予測に合致した指標はないことになる。 日銀短観は、企業の業況見通しが集約されており、株価に与える影響は大きい。特に、大企業製造業の業況判断DIの注目度は高い。また、セクターごとの業績予想が株式の投資判断指標として利用されている。