9月のバルチック・ドライ指数BDIは前月比▲6.7%の1411と2カ月続落。船型別インデックスを見ると、ケープサイズ(BCI)が2179(前月比▲6.7%)、パナマックス(BPI)は1384(同▲14.9%)、ハンディマックス(BSI)は952(同+4.0%)、ハンディサイズ(BHSI)は569(同+11.6%)。
■鉄鋼は需給改善か
世界鉄鋼協会によると、8月の世界粗鋼生産量は前年同月比+0.6%増の1億5,624万トンと、半年ぶりに前年水準を上回った。首位中国は9,485万トン(同+8.4%増)と過去最高を記録した。また、2位インドは4月に314万トン(同▲65.2%減)と2004年以来の低水準に激減していたが、8月は848万トン(同▲4.4%減)と4カ月連続で前月を上回り、3月以来の水準に戻している。アジア、欧米諸国の多くは鉄鋼生産が前年水準にはまだ届いていないものの、着実に回復傾向を示している。
世界の鉄鋼部門では生産だけでなく需要も回復していると考えられる。これまで中国向けトレードに大きく偏った鉄鋼原料・鋼材の荷動きの中国依存度が徐々に低減して揚げ地が分散すれば、ドライバルク市況の上押しに繋がる。ただ、世界経済を強く下押しする新型コロナウイルスへの対応において、各国政府は感染状況と経済を両睨みしながらの難しい政策運営を強いられている。感染収束時期が見通せない中で、足元のフランス・スペインで見受けられるような感染再拡大の懸念もあり、消費・投資心理回復の足かせとなっている。
中国向け鉄鉱石指標価格(TSI62%)は6月上旬にトン当たり100ドルを突破、その後も上昇を続け、今月上旬には2014年以来の高値である130ドル台をつけたが、9月末には120ドル弱まで軟化しており、鉄鉱石需給バランスに緩みが生じている様子。中国鋼鉄工業協会(CISA)加盟企業の9月中旬(11-20日)における1日当りの粗鋼生産量は214.6万トンと前年同期を+1.9%上回る高水準ではあるが、9月(1-20日)の生産ペースは8月から▲0.8%減速し、頭打ち感が生じている。
■中国・インドの石炭輸入需要が低迷
石炭について見ると、最大の需要国である中国では、新型コロナ対策の影響で滞船数が高止まりしている。さらに、中央政府が石炭輸入に対して抑制的な方針を保持していることから、海外炭の引き合いは低迷状態が続いている。中国の電力消費量は1~3月に前年水準を大きく下回るペースとなったが、4月以降は前年比プラスに転じ、8月には累計消費量も前年水準を+0.5%上回るに至った。しかし、同国国内における石炭生産はそれを上回るペースで推移している状況で、さらにはエネルギー生産に占める石炭火力の割合も国策として削減が進んでいるため、総じて中国の石炭輸入需要には強い下押し圧力が加わり続けている。
中国に次ぐ石炭輸入大国であるインドでも、コロナ禍での電力需要減により今年の輸入炭需要は直近まで低調が続いている。インド国内の石炭供給をほぼ独占している国営コール・インディアは8月、新型コロナウイルスによる需要低迷を受けて2020年度(4月~3月)の石炭生産量目標を7.1億トンから6.5~6.6億トンへ引き下げたことを明らかにしたが、同社は今年度ここまで(4~8月)の石炭生産量が2.1億トンと昨年を下回るペースで推移、石炭販売量も2.08億トンと前年同期比▲13.4%減少している。昨年度、同社の生産量は6億200万トンと目標に据えていた6.3億トンを下回ったが、パンデミックの余波が長引けば今年度の目標達成も厳しくなる可能性が高い。
■米国産穀物の中国向け輸出の回復
最後に穀物について見ると、9月に新穀物年度を迎えた米国では、穀物が前年を大幅に上回る賑わいを示している。米農務省(USDA)によると、2020/21年度(9月~)の主要穀物の輸出検証高は直近24日までの累計が、大豆は485万トンと前年同期比+53.7%増加、トウモロコシが278万トンと同+79.3%増加、グレインソルガムが30万トンと同+200.9%増加している。
米国産穀物輸出の増勢を強く牽引しているのは、米中第一段階合意を踏まえた中国向け輸出の回復で、最もボリュームが大きい大豆は17日までの累計輸出量が226万トンと、前年同時期の62万トンを上回るだけでなく、米中摩擦が過熱する以前の2017/18年度をも上回るハイペースとなっている。米中対立が深まる中、中国勢は外交手段として米国農産品の購入を拡大させている側面があるが、実需面においても中国大豆需要は堅調な模様。
中国農業農村部によると、豚飼育頭数が500頭を超える養豚場は年初の16万カ所から8月時点で17万カ所に増加している。また、8月の繁殖豚飼育頭数は前月比+3.5%増と11カ月連続で前月を上回るとともに、前年同月比では+37%増加した。2018年夏に表面化したアフリカ豚コレラの感染拡大で激減した中国の豚飼育頭数は持続的な回復傾向を辿っている。また、調査会社COFEEDによると、9月第四週(-25日)の中国大豆圧搾量は227万トンと過去5年間で最高水準にあり、飼料需要が旺盛さを取り戻している様子が窺える。
<金融用語>
バルチック・ドライ指数とは
正式名称は「The Baltic Dry Index=通称BDI」で、英国のバルチック海運取引所が算出・公表する指数。世界各国の海運会社やブローカーから、鉄鉱石・石炭・穀物などの乾貨物(ドライカーゴ)を運搬する外航不定期船の運賃を収集し、一日1回算出している。1985年1月4日を1000として算定、国際的な海上運賃の指標となっている。株式市場でも、海運会社、特に不定期船を主力とする会社との株価連動性が高いとされる。