【日経QUICKニュース(NQN) 尾崎也弥】前代未聞の終日取引停止から一夜明けた2日の東京株式市場では、日本取引所グループ(8697)や富士通(6702)を売る動きが目立った。無事に取引は再開したが、詳しい原因究明が待たれるなかシステムに対する不安が完全に払拭されたわけではないようだ。これまで歓迎してきたデジタル化の流れに対し、慎重な見方もじわり広がっている。
前日の米株高を受け、日経平均株価は前日(9月30日終値を10月1日終値と認定)に比べ上昇してスタート。その流れで朝方は日本取引所や富士通にも買いが入ったが、続かなかった。
日本取引所は前回取引のあった9月30日と比べ1.8%安の2886円、富士通は3.7%安の1万3815円までそれぞれ売られる場面があった。東証の売買システム「アローヘッド」を設計・開発した富士通は今回故障したディスク装置や、正常に作動しなかった2号機への切り替えシステムも手がけていた。
■広がる不信感
証券マンが手サインで売買注文を伝達する「場立ち」経験者である岡三オンライン証券の伊藤嘉洋チーフストラテジストは、取引再開に安堵しつつも「いくら何でも半日で復旧すると思っていたのだが、なぜ2号機が作動しなかったのか」とすっきりしない様子。盤石だと思われていた機器の精度に対する不信感は市場参加者の間で少なからず広がっている。
野村証券の山崎雅也リサーチアナリストは1日付の投資家向けリポートで「東証と富士通による早期原因究明が待たれるが、バージョンアップ後1年で故障が発生した要因や自動でのバックアップ切り替えができなかった要因に加え、システムの冗長性のあり方が最適であったのか、といった点の検証が求められる」と指摘していた。
東証は富士通に損害賠償は求めない方針。今回の一件が富士通の業績に与える影響について、市場では「限定的」との受け止めが多い。富士通や日本取引所も下値を売り込む動きはみられない。
■デジタル化に冷や水
ただ、個人投資家からは「一度芽生えた疑念は簡単には消えず、政府が進めるデジタル化の流れにも影響しないか注視したい」という声が出ていた。政府はデジタル庁の旗揚げを表明したばかりだ。
きょうは「デジタル庁関連」としてはやされていたショーケース(3909)やNEC(6701)に売りが出た。富士通も行政のデジタル化の恩恵を受けるとみられていた側面がある。
新型コロナウイルスの感染拡大はキャッシュレスやリモートワークなどデジタル化の流れを加速させている。同時に電子決済サービスを悪用した不正引き出しなども相次いでいる。今回の東証の一件に限らず、時代の流れでいままで起きなかったことが起きるようになった。デジタル時代の落とし穴――。銘柄選別への影響が続かないか、注意は怠れない。