【日経QUICKニュース(NQN) 松下隆介】国際的な海上運賃が急ピッチで上昇している。ばら積み船の運賃を指数化したバルチック海運指数は2日、約1年ぶりの高水準に上昇した。インフラ投資の拡大などを背景に中国で鉄鉱石需要が高まり、鉄鉱石を積む大型船の運賃が値上がりしている。鉄鉱石の主要な生産国の一つであるブラジルでは一段の生産拡大も見込まれ、海運市況の追い風になりそうだ。
■ブラジル―中国
バルチック海運指数は2日に2020と、2019年9月下旬以来の高水準を付けた。主要な生産国の一つであるブラジルの鉄鉱石輸出が増え、大型船であるケープサイズ(載荷重量約18万トン)の運賃が上昇したためだ。ブラジル政府の発表では9月の鉄鉱石輸出は前年同期比で2割近く増えた。イタリアの海運仲介大手バンチェロコスタによると、ブラジルと中国をつなぐ航路では9月中旬から下旬にかけて、5割近く上昇した。
ケープサイズの用途の8割は鉄鉱石の運搬とされ、主な消費国は粗鋼生産量で世界シェアの6割を占める中国だ。中国での旺盛な鉄鉱石需要が海運市況の改善につながっている。
世界鉄鋼協会は9月下旬、8月の世界の粗鋼生産量が前年同月比0.6%増の1億5620万トンだったと発表した。中国での増産を受けて、6カ月ぶりに前年の水準を上回った。中国の鉄鋼取引のプラットフォームを運営する「西本新幹線」によると、中国の主要企業の粗鋼生産量は9月以降も高止まりしているようだ。
トランプデータサービス(東京・千代田)の分析では、鉄鉱石を積んで中国に向かった多くの船が荷揚げできず、滞船しているという。世界で新型コロナウイルスの感染が広がるなか、輸入品の荷揚げに時間がかかるなど、複数の要因があり「ほしいタイミングで船を手当てできなくなるリスクが運賃の高騰につながった」(海老原良社長)面もある。
■インフラ・不動産が活発
コロナ禍からいち早く脱した中国の国内景気は、戻り歩調をたどっている。特に鉄鋼を利用するインフラや不動産への投資が活発で、こうした投資は地方債の発行や銀行借り入れなどが原資だ。実際、中国人民銀行が発表した8月の社会融資総量は前年同月比13.3%増と、7月(12.9%)から増加ペースが拡大した。
三菱UFJ国際投信の入村隆秀経済調査室長は「インフラ投資は持続性がある。一方、やや過熱感がある不動産投資に対しては規制当局が警戒を強めているが、景気を腰折れさせるほど締め付けを強化するとは見込みにくい」と指摘。インフラ、不動産とも投資は今後も堅調に推移するとみる。
「中国の輸入拡大を受けて、ブラジルからの鉄鉱石輸出は年内は増加し続けるだろう」。ノルウェーのDNBマーケッツは、こう指摘する。市場では、中国需要の拡大を理由に「鉄鉱石相場は22年まで上昇が続く」(クレディ・スイス)との見方もある。鉄鉱石を取り巻く良好な需給環境を追い風に、海運市況の改善基調はしばらく続きそうだ。