【NQNニューヨーク 戸部実華】10月6日の米債券市場で長期債相場は反発し、10年物国債利回りは前日比0.05%低い0.73%で終えた。トランプ米大統領が民主党との追加経済対策の協議停止を求め、米株式相場が急速に下げると相対的に安全資産とされる米長期債は買いが優勢になった。ただ、米大統領選の世論調査で民主党のリードが拡大しており、来年以降の大型財政出動を意識し始めた市場関係者が増え、金利低下余地は限られるとの声も聞かれた。
■株安・債券高広がる
「大統領選挙後まで(追加経済対策の)協議を停止するように指示した」。6日午後のトランプ氏のこのツイッター投稿が比較的小動きで推移していた相場に動揺をもたらし、株安・債券高が一気に広がった。トランプ氏は「(民主党案は)民主党の州を救済するためで、新型コロナウイルスと関係がない」「(自身が)選挙で勝てばすぐに勤勉な米国人と小企業に焦点を当てた対策を通す」などとも書き込んだ。
米与野党は連日で協議を続けており、市場は早期合意を期待していた。追加の経済対策が「景気を下支えし、物価上昇圧力にもつながる」(オックスフォード・エコノミクスのジョン・キャナバン氏)とみて長期債は売られ、6日朝には10年物国債利回りは0.79%と、ほぼ4カ月ぶりの高水準を付ける場面もあった。
トランプ氏のツイッター投稿を受けて債券は買い優勢に転じたが、10年債利回りは終値ベースでみても1週間前と比べて0.08%も高く終えた。新型コロナや米政治を巡る不透明感が強く0.70%の壁は厚いとみられていたが、それを突き破った。相場の雰囲気が変わった背景についてRWプレスプリッチのラリー・ミルスタイン氏は「民主党政権の誕生が意識され大型の財政出動の可能性が高まったことが一因だ」と話す。
■民主党勝利の想定シナリオ
9月29日の第1回大統領候補の討論会後にウォール・ストリート・ジャーナルとNBCニュースが共同実施した世論調査によると、民主党候補のバイデン前副大統領の支持率は53%と、トランプ大統領の39%を14ポイント上回った。バイデン氏のリードは討論会後に拡大し、市場では民主党が米議会選でも上下両院を制するシナリオが意識され始めたようだ。
ゴールドマン・サックスのヤン・ハチウス氏は5日付リポートで、民主党が大統領選と議会選の上下両院を制した場合、「我々は(経済)見通しを引き上げるだろう」と指摘した。新政権発足後に最低でも2兆ドル規模の経済対策が成立し、長期的にもインフラや気候変動の対策、ヘルスケア、教育関連で財政出動が見込まれ、少なくとも増税分と見合う効果が得られると分析する。
大型の財政出動の景気下支え効果に加え、国債増発が長期化するとの見立ても金利上昇につながっている。既に米政権・連邦議会は大規模な経済対策で景気下支えに動く中、7日実施の10年物国債入札の発行予定額は350億ドルと新型コロナまん延直前の3月と比べて110億ドルも多い。
もっとも、前回の米大統領選では世論調査とは逆の結果となった。今回も結果が出るまでは予測不能だ。米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和政策の効果もあって、長期金利の上昇が勢いを増すとみる市場関係者は少ない。目先の金利水準を探るうえで、まずは7日の10年物、8日の30年物の入札をこなした後の「今週末の水準に注目だ」(BMOキャピタル・マーケッツ)とし、市場は冷静さを保っている。