(QUICK Market Eyes 池谷信久、片平正二)トランプ大統領が10月6日にツイッターで、新型コロナウイルス(COVID-19)に伴う追加経済対策の与野党協議を当面停止すると表明した。
■「協議中止」でも下がりにくい米長期金利
トランプ米大統領が新型コロナウイルスに感染した2日以降、米長期金利の水準は切り上がった(緑線)。11月3日の米大統領選でバイデン前副大統領が有利になり、大規模な財政出動が実現するとの思惑が背景にある。7日にはトランプ氏がツイッターに「11月の大統領選後まで追加の経済対策の協議を中止するように交渉担当者に伝えた」と投稿したことで、10年債利回りは低下したが、0.7%台を維持している。バイデン氏有利の見方に変化はないようだ。
10年債利回りは5日、6月以来およそ4カ月ぶりの高水準を付けた。6月の金利上昇は米雇用統計の上振れなど、景気回復期待によるものだった。景気回復は一段と進んでおり、米BEI(ブレーク・イーブン・インフレ率、債券市場が織り込む期待インフレ率)も上昇している。米長期金利は下がりにくくなっているようだ。
■追加経済対策の時期は?
トランプ氏は「11月の大統領選後まで、代表団に協議の打ち切りを指示した」と表明。民主党の2兆ドル規模の対策案を「拒絶する」と主張し、11月の選挙に勝利すれば、独自の1兆ドル規模の経済対策を成立させる方針を示した。
トランプ氏のツイートを受け、ノムラ・セキュリティーズは6日付のリポートで「この発言は、ペロシ下院議長とムニューシン財務長官との間で1週間にわたって行われた交渉で、両者は進展を見せたものの、最終的には別の財政措置の規模について合意に至らなかったことを受けたものだ」と指摘。その上で「我々は選挙後まで追加的な財政支援を期待していなかったが、トランプ氏の発表は景気回復が予想以上に減速した場合に経済が直面する短期的リスクを強調している。追加支援の時期は、新議会が発足した後の1月か2月が有力だ」としながら、「選挙結果が争われる可能性があることを考えると、11~12月のレームダック期間がさらなる進展を妨げるかもしれない」とも見ていた。
また、バイデン前副大統領が大統領に当選しても、「共和党が上院の主導権を維持すれば、次の財政政策の最終的な規模は小さくなるだろう」としつつ、大統領と上下院を民主党が獲り、オールブルーとなれば「より大きな経済対策となる可能性がある」とも指摘した。
<金融用語>
BEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)とは
市場が推測する期待インフレ率を示す指標のこと。英語表記(Break Even Inflation rate)を略して「BEI」とも呼ばれる。物価連動国債の売買参加者が予測する今後最大10年間(物価連動国債の残存期間次第で10年未満になる場合がある)における年平均物価上昇率を示す。ここでの物価変動はコアCPIと呼ばれる「全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)」を基準とする。 物価連動国債の利回りを実質金利と呼び、実質金利と長期金利(長期固定利付国債利回り)の間には理論的に「期待インフレ率≒長期金利-実質金利」という関係が成立する。実質金利は物価連動国債の市場価格から計算できるので、同年限の長期金利と対比することにより、期待インフレ率を逆算推計することが可能となっている。 ただし、実質金利に対応する物価連動国債の市場価格は、期待インフレ率以外の要因として需給関係や流動性などのリスクプレミアムの影響を少なからず受けるとの考え方が通説となっている。