インターネット上の代表的な暗号資産(仮想通貨)ビットコインが大きく値を上げている。10月11日に約1カ月ぶりに1ビットコイン=1万1000ドル台に乗せ、日本時間の12日10時時点では1万1300ドル前後で推移している。中国の通貨当局が急速な人民元高をけん制したと受け取れる施策を発表したことなどを受け、米ドル売りの相手側として再び存在感が増した。
■ドル売りのペアは…
外国為替市場では11月の米大統領選の結果にかかわらず、米連邦準備理事会(FRB)による金融緩和姿勢に変わりはないとの観測からドル安継続のシナリオが優勢になっている。
問題はドルを売る際にペアとして買う相手だ。8月にかけては欧州通貨に持ち高が偏ってしまい、9月に株価が調整したときには逆回転のユーロ安や英ポンド安が加速した。損失を被った市場参加者は少なくない。その反省からヘッジファンドなどの投機筋はドル売りの対象通貨を分散させ、矛先は当局があまり動いていなかった中国の人民元にも向かっていた。
ところが中国人民銀行(中央銀行)は10日に突如、市中銀行が将来に人民元を売って外貨を買う為替予約をする際に預ける「危険準備金」措置を12日からやめると発表した。人民元売り・ドル買いがしやすくなった人民元の相場上昇は収まるに違いない――。そう判断したアジア勢の一部は人民元安のリスク回避(ヘッジ)も視野にビットコイン買いに傾いたとみられる。
■元の代わりにビットコイン
人民銀の危険準備金は投機マネーによる空売り防止策の側面が強い。トルコ中銀が為替先物の取引に関連するリラの借入金利を引き上げているのと同じだ。準備金廃止は元の空売りを容認し、元高をけん制しようとしていると受け止めるべきだろう。
シンガポールに拠点を置くあるヘッジファンドのマネジャーは中国当局の施策について「元売り介入の強化による露骨な通貨安誘導ではないので欧米諸国も批判はしにくい。このまま(投機資金や企業のドル買い予約に伴う)自然な人民元安を促すことに成功すれば中国の輸出や中国と関係の深いアジアの株価にはプラスだろう」と指摘。そのうえで「元の代わりにビットコインをリスクをとって買う戦略が広がるのではないか」と語る。
ビットコインには7月の終わりごろから米IT(情報技術)関連株などを手掛ける足の速い資金が流入し、9月にはユーロなどとともに急落を演じた。一方、オプションやシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の先物など価格下落リスクのヘッジ手段が豊富なビットコインには長期投資家も加わり、相場を支えてきた。
米商品先物取引委員会(CFTC)が前週末に発表した6日時点の建玉報告によれば、CMEのビットコイン先物の総建玉は8月のピークの半分ぐらいに落ち込んでいる。だが、3月のコロナショック時に比べるとまだはるかに多い。腰を据えて暗号資産で運用するマネーは勢力を保っているようだ。(NQNシンガポール 今晶)
<金融用語>
ビットコインとは
インターネット上の商取引の決済に用いる代表的な仮想通貨の一種。2009年から流通が始まったとされ、他の仮想通貨と同様、中央銀行が介在せず実物資産の裏付けがないのが特徴。専門の取引所を介して、円やドルなどとも交換できる。国境を越えた取引でも同じ通貨が利用でき、決済の手数料がほとんどかからないなどのメリットがある。 通貨単位はBTC。取引にはP2P(peer to peer、ピアツーピア)ネットワークと呼ぶパーソナルコンピュータなどの個人端末を直接結ぶ通信処理技術が活用されている。取引情報は暗号化され匿名データとしてネットワーク上に履歴が残る。通貨発行量(供給量)は約2100万BTCと上限が定まっており、通貨流通量も自動コントロールされる。 採掘(マイニング)と呼ぶ新たな通貨の発行は、偽造が事実上困難となる数式処理を駆使することで、すべての取引記録の正当性をチェックし台帳に追記する報酬として支払われる仕組みになっている。 ビットコインの売買は取引所によって価格が異なり、仮想通貨は株式投資におけるPER(株価収益率)などのような投資尺度をはかる目安がないため投資家の期待先行などで価格が大きく変動する傾向がある。投機資金が流入しやすいことに加え、匿名性の特徴から社会的に違法性の高い取引に利用されやすく、各国でその位置付けや対応が異なるなど、普及には決済通貨としての信用度に関わる課題がある。 日本では、2017年4月に改正資金決済法(仮想通貨法)が施行され、ビットコインをはじめとする仮想通貨サービスの適切化にむけた制度の整備が進みつつある。