【日経QUICKニュース(NQN)山田周吾】原油相場に3つの下落リスクが横たわる。米大統領選での民主党候補のバイデン氏の勝利と新型コロナウイルス感染者の急増、リビアの原油増産だ。今年の夏場から原油相場が膠着すると、カナダドルやノルウェークローネといった産油国通貨は急速に上昇の勢いがなくなった。今後、原油相場が下向きになれば、産油国通貨には売りが増える可能性がある。
■「バイデン米大統領」なら・・・
16日のニューヨーク原油先物は期近の11月物が前日比0.08ドル安の1バレル40.88ドルだった。原油相場は6月半ば以降、おおむね35~45ドルの狭い範囲内での動きが続く。石油輸出国機構(OPEC)加盟国などの協調減産や世界的な金融緩和が相場を支える半面、経済正常化への遅れが需要後退につながるとの懸念が上値を抑えてきた。
方向感が乏しい原油相場だが、先行きに目を転じると売り要因は少なくない。米大統領選でこれまで優勢との見方が広がるバイデン氏は、環境保護のためのクリーンエネルギー推進を強調する。バイデン大統領が誕生すれば「化石燃料の消費減少が意識され、原油は売られやすい」(楽天証券経済研究所の吉田哲氏)との声がある。
新型コロナのワクチンや治療薬開発に時間がかかっており、ここにきて欧州を中心に新規感染者数が急増している。経済正常化は遅れかねず、原油業界に詳しいエコノミストは「結局、原油の需給を左右するのは新型コロナが早期に収束するかどうかで、ワクチンなどが開発されない限り50ドル超えは難しい」と予想する。
■産油国通貨と日本円
北アフリカのリビアにおける原油の生産再開も、相場下落リスクの1つだ。リビアでは暫定政府と軍事組織の内戦で生産が制限されていたが、両者の停戦合意により原油生産が再開している。国際エネルギー機関(IEA)が14日に公表した月報では、現在日量30万バレルまで回復しているようだ。「リビアが以前のように日量100万バレル以上の生産量に戻れば、原油需給の緩みが意識される」(フジトミの斎藤和彦氏)という。
※WTI原油先物(緑)と対円のカナダドル(白)、同ノルウェークローネ(赤)
カナダドルとノルウェークローネの対円相場は、4~6月の3カ月でそれぞれ4.1%、8.6%上昇した。原油上昇に歯止めがかかった7月以降、15日までの3カ月半の上昇率は0.3%、0.5%にとどまる。すでに上昇が鈍化してきた産油国通貨は、原油の下落トレンドがはっきりしてくると、下げ足を速めかねない。