【日経QUICKニュース(NQN)山田周吾】楽天(4755)は10月28日、3本立ての劣後特約付き債(劣後債)の発行条件を決めた。携帯電話事業の基盤整備で資金調達を急ぐ同社が劣後債を発行するのは2018年12月以来、ほぼ2年ぶりだ。金融緩和策で低金利環境が常態化するなか、高い利回りを確保したい投資家からの需要もあり、このところ劣後債への注目度は上昇している。今回起債された楽天債も例外ではなく、投資家からの需要は堅調だったようだ。
■発行総額1200億円まで増額
楽天が条件を決めた劣後債は35年物と37年物、40年物の3本立てで、それぞれ条項で定められた期限前償還ができない期間(ノンコール、NC)が5年、7年、10年となっている。9月末時点で予定していた1000億円の発行総額は、最終的に1200億円にまで増額された。
主幹事を務めた大和証券によると、NC5年は2.7倍程度、NC7年は1.7倍程度、NC10年は2.6倍程度の需要を集め、総額では発行額1200億円に対し、約3000億円と2.5倍近くの需要が集まったという。販売先について、生命保険会社や信託銀行、投信投資顧問など幅広い投資家から需要を集めた。
■携帯電話事業の設備投資に
楽天は4月に携帯電話事業を本格的に始め、基地局整備に8000億円の設備投資を計画する。8月にはその整備を5年ほど前倒しする方針を打ち出した。今回、調達した資金も楽天モバイルの第4世代移動通信システム(4G)基地局整備などに充当するとしている。資金調達の手段として劣後債を選んだ理由について、同社は「格付け維持や財務基盤の安定を目的に、調達資金の一部が資本として認められる劣後債を選択した」(広報部)と話す。
楽天が劣後債を発行するのは今回が初めてではない。18年12月に同社初の劣後債として総額1820億円の3本立て債を発行している。前回は市場想定よりも高めの利回りを求められたうえ、発行額は当初想定より少額だったとされる。一方、今回の楽天債は当初予定額から200億円増額しての発行となる。その背景には劣後債自体への理解度が急速に深まったことが影響したとの見方があった。
■「劣後債への投資意欲が向上している」
劣後債は普通社債より返済の順位が低いが利率が高い。期限前償還条項が付いているので、実際に条項通りに償還されれば「実質5年、7年、10年債」への投資とされる。また一部を格付け会社が資本として認定するため、発行体にとっては財務の悪化を防げるという特徴をもつ。大和証券の大橋俊安チーフクレジットアナリストは、武田薬品工業(4502)が昨年に5000億円の大型劣後債を起債したことをきっかけに市場でのプレゼンスが高まったと分析し、「様々な投資家に仕組みが理解されたこともあり、劣後債への投資意欲が向上している」とみている。
ある国内生保の社債担当者は「例えばNC10年では利回りが年3%と、普通社債などではなかなか見られない高水準だ。低金利の長期化で運用難に苦しむなかで、投資妙味があったと感じる投資家が多かったのではないか」と話す。ただ新規参入した携帯電話事業では大手3社との厳しい競争が続いており、今後の財務状況の悪化を懸念して投資を見送った投資家もいるとの声があった。前出の社債担当者は「携帯電話以外の事業である電子商取引(EC)などが堅調だとして投資した人もいるだろう」と指摘した。
<金融用語>
劣後債とは
企業が社債を発行する際、通常無担保で発行される社債を一般無担保社債もしくは優先社債(シニア債)というが、一般無担保社債と比べて、元本および利息の支払い順位の低い社債を劣後債ないし劣後社債(またはシニア債に対しジュニア債)と呼ぶ。債務不履行のリスクが大きい分、利回りは相対的に高く設定されている。 劣後債はその社債要項に劣後特約が付され、債券の名称に「劣後特約付」と付されることが一般的である(付されない場合もある)。破産や会社更生手続きの開始など劣後特約で定められた「劣後事由」が発生すると、一般無担保社債などの一般債務の支払いが劣後債よりも優先される。企業が発行する劣後債は、その企業の清算時に、残余財産の弁済(支払い)順位が優先される一般無担保社債と弁済順位が最も低い株式との中間的性格を持っている。 金融機関の発行する劣後債については、一定の制限の下、自己資本比率規制上において資本として計上することができることから、金融機関の資本増強策として利用されることがある。 なお、CBOは、さまざまな格付けの債券を集めてポートフォリオを作成し、その元利金を担保にして発行されるが、そのポートフォリオが生むキャッシュフローの支払いに優先順位を付けることにより、高格付けのシニア債、低格付けの劣後債(ジュニア債)、そしてその中間のメザニン債に分けて資金調達を行う仕組みである。 また、劣後債、優先株式、優先出資証券などをハイブリッド証券と呼ぶこともある。ハイブリッド証券は資本と負債の両方の特徴を持つ証券で、普通社債よりもリスクが大きい一方で、相対的に高い利回りを期待できる面があり、投資信託の組入資産としても注目されている。