【QUICK Market Eyes 川口究】米大統領選挙の開票が続いている。米メディアの報道によればバイデン前副大統領が優勢だという。一方、議会上院では共和党が優勢といい「ねじれ状態」が続く可能性が高い。これは米市場にとって好都合。民主党が掲げるハイテク企業への規制強化の懸念が後退したほか、大規模な財政出動は難しくなるとの見方で、4日に債券が大きく買われ、主力ハイテク株には本日も強い流れが継続した。
■米大統領選の不透明感解消で買いが優勢に
こうした反応について三菱UFJモルガン・スタンレー証券は11月5日付リポートで「新型コロナ→『ねじれ』→財政出動期待の低下→大規模な金融緩和の期待が先行した可能性が米大統領選挙のイベント通過に加えて起きたと解釈できるのではないだろうか」との見方を示した。今年3月には、各国で桁違いの金融緩和が行われ、新型コロナで急落した株式市場は大幅に切り返したため、今回の株高を「このリアクションを先取りする動き」とみている。
そのため、金利低下時及び新型コロナ相場でも強い銘柄が物色されたと考えられるという。年末にかけては世界各国で再び金融緩和が相次ぐ見通しといえる。英イングランド銀行(中央銀行)は5日、量的金融緩和策の拡大を発表。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁も12月の理事会での追加金融緩和を示唆している。
5日のダウ平均は上げ幅を一時647ドルに広げた。同日まで行われた米連邦公開市場委員会(FOMC)で金融政策の現状維持が示されたことに反応は限定的。セールスフォース・ドットコム(CRM)が64ドルの押し上げ要因となり、1.94%高の2万8390ドルで終えた。
ナスダック総合株価指数も4日続伸し、2.6%高の1万1890.93で終えた。2020年7~9月期決算が市場予想を上回った半導体のクアルコム(QCOM)が大幅に上昇するなど半導体関連株が好調だった。
これらの展開を踏まえると11月の米株式市場は堅調な展開となりそうだ。ダウ工業株30種平均は2万9000ドルを試す展開も想定される。11月3日の米大統領選を控えた直前の週でダウ平均は6.5%安と、3月中旬以来ほぼ7カ月ぶりの下落率を記録した。大統領選に伴う不透明感が解消するにつれて売り持ち高を解消する買いが優勢になりそうだ。
米投資銀行エバコアISIは投開票直前の機関投資家への調査の結果、大統領選ではバイデン前副大統領が勝利し、上院では共和党が上院の過半数の議席を獲得するとの見通しだったとして「トランプ大統領、バイデン前副大統領のいずれが勝利しても、明確な結果があればボラティリティは低下し、低リスク資産が買われてきたこれまでの巻き戻しが発生する」と指摘。
大統領選後にはリスク資産の買い手に回る姿勢を示唆した。もっとも、大統領選の決着の遅れには注意が必要だ。トランプ氏は開票結果を巡り早くも訴訟を起こすと表明している。大統領が早期に決まらなければ不確実性が高まるうえ、経済対策など政策運営への遅れが嫌気される場面がありそうだ。
■世界経済は「景気循環の初期」
米景気の減速懸念が和らぎつつある。7~9月期の米実質国内総生産(GDP)速報値は前期比年率換算で33.1%増と、比較可能な統計がある1947年以降で最大の伸び率を記録した。4月以降は米小売売高が5カ月連続で増加しており、GDPの7割を占める個人消費が米経済をけん引している。バンク・オブ・アメリカが公表した10月の機関投資家調査では、世界景気が今後1年間で「後退しそう」との回答から「後退しそうにない」と回答した比率を引いた値がマイナス54%と、9月のマイナス28%から大きく改善した。
現状の世界経済は「景気循環の初期」にあるとの回答は60%に達し、前月比で11ポイント上昇した。米主要企業の決算発表では、年初から続いた慎重な見通しからの上方修正が目立ち始めた。とりわけヘルスケア関連企業が健闘しており、プロクター&ギャンブル(P&G)が発表した2020年7~9月期の連結純利益は2割増となり、21年6月期の売上高の予想を上方修正した。
■コロナワクチン
欧米で新型コロナウイルスの感染第2波が到来している。感染急増でフランスやドイツは外出や飲食店などの営業を禁じる行動規制を再導入した。英国は首都ロンドンのあるイングランド地方を再びロックダウン(都市封鎖)すると発表した。欧州疾病予防管理センター(ECDC)の統計によると米国の1日当たりの新規感染者数が10月末に10万人を超えるなど、過去最多の水準で推移している。
一方、死者数は第1波と比べ低位で安定しており、ワクチンの開発も進んでいる。バイオ製薬のモデルナは開発中のワクチン候補に関して12月にも米食品医薬品局(FDA)から緊急使用許可が下りる可能性があるとの見通しを示したほか、21年にも販売を開始する可能性を示唆した。治験が終了しておらず現時点で安全性は証明されていないものの、ロシア製のワクチン接種がアルゼンチンで12月から始まる。経済正常化を意識する市場の関心を集めそうだ。
米大統領選では現職のトランプ氏が「徹底抗戦」の姿勢を示すなど目先のシナリオすら見極めきれない。それでも市場は好材料だけ切り出す「ご都合主義」を満喫しているようだ。