(この記事は2020年11月27日に公開したものを再構成しました)
【QUICK Money World 辰巳 華世】リーマン・ショックや新型コロナショックなど、世界経済を揺るがす出来事で株式相場が急落すると注目される指数があります。新聞などで「恐怖指数」と紹介されているVIX指数で、相場の先行きに対する警戒感を数値化したものです。今回は、VIX指数について基本的な説明から、VIXの特徴や過去の事例、VIXを投資にどう活かすかについて紹介します。
VIX指数とは何か、株式相場との関係は?
VIX指数は、「Volatility Index(ボラティリティ・インデックス)」の略語です。VIX指数は米国株を対象とした指数で、投資家が株価の先行きにどれほどの振れ幅を見込んでいるかを示す「株価変動率指数」です。ボラティリティとは金融用語で価格の変動性のことです。先行きの値動きが荒くなる、ボラティリティーが高くなると見る投資家が多くなると、VIX指数は上昇。相場の膠着状態が続く、ボラティリティーがあまりないと見る投資家が多くなると、VIX指数は低下します。つまり、VIX指数が高いほど、株式相場の急な下落や急な上昇が起こる可能性が高く、VIX指数が低いほど、株式相場が安定しており、株価の急な下落や急な上昇の可能性が低いと言えます。
VIX指数は通常10〜20の範囲内で動くとされ、30を超えてくると警戒領域と判断されます。ロシア軍のウクライナ侵攻が伝わった2022年2月には、VIX指数が30を超える水準で推移し一時、37.79まで上昇しました。長引く戦況に乱高下する株式相場にあわせVIX指数も不安定な動きとなっています。2020年3月の新型コロナショックの相場急落局面でのVIX指数は85.47まで上昇しました。この様に投資家が市場に不安や恐怖を抱いている時に上昇する数値なので、日本語では「恐怖指数」と呼ばれており投資家心理を数値化したものと言えます。
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VIX指数は、シカゴ・オプション取引所(CBOE)が発表しています。米国の主要指数の一つである「S&P500」を対象とするオプション取引の値動きをもとにVIX指数を計算しています。S&P500はニューヨーク証券取引所(NYSE)やナスダック証券取引所に上場している銘柄から代表的な500銘柄の株価を浮動株調整後の時価総額比率で加重平均し指数化したものです。S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(S&P DJI)が算出しています。VIX指数は米国株を対象としているので、米国市場の先行きの不透明感が高まり相場が下落するとVIX指数は上昇します。
VIX指数の上昇は、米国株式相場の急落の前兆だとする見方もあります。相場が堅調にも関わらず、VIX指数が上昇している場合、相場の先行きを警戒してる投資家が増えていると考えることもできます。また、VIXが10台で低迷しているときは、相場に楽観ムードが漂い、短期的な相場の天井圏であるとの見方もできます。
VIX指数の値動きの特徴
過去にVIX指数が大きく上昇した例をみてみましょう。
このようにVIX指数は株式市場の動向を読み解く上での重要な指数です。
相場が下落し相場の変動性が高まるとVIX指数は高くなります。上の表にもあるよう2008年10月リーマン・ショックで相場が急落した局面では、VIX指数は89.53まで上昇しました。これはVIX指数の過去最高値になります。リーマンショック時のVIX指数は一気に上昇しました。その後50を割るまでに1~2カ月程度かかり、完全に落ち着くまでに1年以上の時間を要しました。2020年3月の新型コロナショックの相場下落局面ではVIX指数は85.47とリーマンショックとほぼ同じ水準まで上昇しました。2022年2月に始まったロシア軍のウクライナ侵攻では、VIX指数が一時、37.79まで上昇しました。
VIX指数の投資活用
VIX指数は、投資家なら誰でも活用できる指数です。VIX指数は、投資家心理を数値化したものです。投資家が市場に不安や恐怖を抱いている時に上昇する数値なので、相場の温度計として活用することができます。VIX指数は30を超えてくると警戒領域と判断されます。過去の事例を見ても、世界経済を揺るがすような大きな出来事が起こるとVIX指数は急上昇し、株式相場は暴落しています。相場の急落は投資家としてとても不安になりますが、こういった時ほど冷静な判断が大切になります。
こういった時の相場急落は、実際に経済に与える打撃に加え、投資家の不安心理が加わって起こっていることがあります。投資家心理の不安が加わって売られる場合、本来ある価値以上に売られすぎてしまう傾向があります。過去の事例をみても、時間はかかることはありますが、VIX指数がいずれ落ち着くタイミングがやってきます。なので、VIX指数が急上昇したからと言って、慌ててすぐに株式を売るという判断は得策ではないかもしれません。いったん落ち着いて状況を分析することが大切です。
また、VIX指数の急上昇による相場暴落を投資のチャンスと考えることもできます。実際の価値より売られすぎてしまった相場は、落ち着きを取り戻せば戻る可能性が高くそういったタイミングで投資をするのは一つの手です。ただ、大切なことは、やみくもに投資をするのではなく、例えば個別銘柄であれば、財務状況や今後の見通しなどをしっかりと分析し判断していくことです。
VIX指数が大きく上昇するのは、過去の事例から見ても分かる様に数年に1度あるかないかという頻度です。今後、VIX指数が上昇する様な出来事が起こった時に、慌てることなく、冷静な判断ができる様に投資の知識と経験を積むことが大切です。
VIXを使った取引 メリットを紹介
VIXは指数であり、それ自体を売買することはできませんが、VIXの短期先物指数に連動した上場投資信託(ETF)である「国際のETF VIX短期先物指数」(1552)がありましたが、2024年2月に上場廃止となりました。
上場廃止にはなりましたが、ここではVIXに連動したETF投資のメリットを紹介します。VIX指数と株式相場は逆の動きになります。株式相場が下落するとVIX指数は上昇、株式相場が上昇するとVIX指数は下落となります。なので、相場が大きく下落し、相場の変動性が高まりそうだと想定するなら、VIX連動ETFを買うことは投資戦略のひとつです。実際に相場が急落し、VIXが上昇したタイミングでETFを売れば値上がり益が出ます。ただ、予想に反して相場の下げが限定的だったり、相場の変動が小さい場合は損失が発生する可能性もあるので投資する際には注意が必要です。
また、VIX指数は、株式相場と逆の動きをするので、リスクヘッジとして活用することも可能です。例えばS&P500のETFなどのリスクヘッジとしてVIX連動のETFを保有し、両方の下落に備えることも可能です。米国相場が下落すると、日経平均株価など日本株も同じ様に下落する傾向が強いので、VIX指数への投資は、米国株だけでなく日本株に対するリスクヘッジとして活用できる場合もあります。ただ、後ほど紹介しますが、日本にも同じ様なVIX指数があります。日本のVIX指数である「日経平均VI」に連動するETFもあるので、日経平均株価下落へのリスクヘッジには日経平均VIを使うと良いです。
VIXを使った取引 デメリットを紹介
VIXを使った投資にはデメリットもあります。VIX上昇を予想してVIXに連動するETFに投資をしても、予想に反して相場の下げが限定的だったり、相場の変動性が小さい場合は損失が発生する可能性があります。VIXを使った投資は、長期保有には向いていません。VIX指数が大きく上昇するのは、過去の事例から見ても分かる様に数年に1度あるかないかという頻度です。先物型ETFのリスクとして、限月交代時の調整により、平時の場合、時間が経過するほど価値が減少していくことがあります。紹介したVIX連動ETFも長期保有には不向きですので、注意してください。
また、上場廃止になりましたが、「VIXインバース」「VIXベア型」と呼ばれる、VIXが下がれば下がるほど投資収益を得られる上場投資証券(ETN)が過去に上場していました。このETNは、反対に株式相場が急落し、VIXが急上昇すると、ETNの価格が急減します。実際、2018年2月の米株式相場の急落時には、たった一晩で96%も価値が吹き飛び、強制償還条項に従って繰り上げ償還、つまり上場廃止となりました。このように、商品性が複雑なものは思いもかけぬ損失に合うケースもあるため、投資には注意が必要となります。
日本にはVIX指数はあるのか?
これまで紹介したVIX指数は米国のS&P500をベースに算出したものですが、日本にも同じような恐怖指数があります。日本では「日経平均VI」と呼ばれています。
日経平均VIは、日経平均ボラティリティ・インデックスの略語です。大阪取引所に上場する日経平均先物と日経平均オプションの価格をもとに日本経済新聞社がリアルタイムで算出・公表しています。投資家が日経平均株価の将来の変動をどのように想定しているかを表した指数です。例えば日経平均VI が 30 の場合は、1 年後に日経平均がプラスマイナス 30% 変動する可能性が 7 割程度あることを意味します。これは 1カ月換算でプラスマイナス 8.6%の変動を示します。
日経平均の値動きが先行き荒くなるとみる投資家が増えると日経平均VIは上昇し、反対に膠着相場が 続くとみられると低下します。下記は日経平均VIの長期(2007年6月~2024年5月)の月足チャートです。通常は20~30程度のレンジ内で上下していて、日経平均株価が下落する局面で日経平均VIが上昇していることが分かります。30が一つの目安とされており、30を上回る状況が続くと相場急落を意識している投資家が多いと言われています。過去の事例では、2008年のリーマン・ショックによる相場下落時は日経平均VIは92、2011年の東日本大震災の直後には70に迫る水準まで上昇しました。2020年の新型コロナショックで相場が急落した時も日経平均VIは46と大きく上昇しています。この様に日経平均が下落する時に日経平均VIは上昇しており、日経平均と日経平均VIはおおむね逆相関の関係にあると言えます。
日経平均VIを使った取引
VIX同様、日経平均VIは指数でそれ自体を売買することはできませんが、日経平均VIを原資産にした日経平均VI先物が大阪取引所に上場しており、これをネット証券などを通じて売買することができます。かつては、日経平均VI先物指数に連動したETN(2035)も上場していましたが、2022年に上場廃止となりました。
VIX関連商品同様、相場が大きく下落し、相場の変動性が高まりそうだと想定するならVI先物や連動ETNを買うことは投資戦略のひとつです。実際に相場が下落し、日経平均VIが上昇したタイミングでVI先物を売れば値上がり益が出ますが、予想に反して相場の下げが限定的だったり、相場の変動性が小さい場合は損失が発生する可能性もあります。
まとめ
VIX指数はマーケット全体の心理状態が反映されます。ですから、市場参加者が今後の相場の変動性をどう予測しているのかを知りたい場合は有効な手段です。ただし、日経平均VI先物自体を取引する場合、例えば相場が予想に反して安定すると損失が発生する可能性があるので、慎重なリスク管理をしましょう。
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