【QUICK Market Eyes 大野弘貴】相次ぐワクチン開発の進展で経済活動の正常化期待が高まった。また米大統領選を通過したことにより不確実性が後退しS&P500種株価指数の予想株価変動率を示すVIXは10月末の38から20代前半まで低下した。日経平均株価も中旬までの暫定ではあるものの、11月18日終値までの11月月間上昇幅が2751円と、1994年1月(2811円81銭高)以来の大きさになっている。
■バリュー株に強気の見方
経済正常化に伴い期待されるのがバリュー株へのローテーションだ。ファイザーとビオンテックのワクチン報道の翌10日には、TOPIXバリュー指数が前日比3.22%高とTOPIXグロース指数の同0.8%安を大幅にアウトパフォームした。TOPIXグロース指数のバリュー指数対比で見たドローダウンは、2009年の指数公表以来で最も大きいものとなった。
証券会社からも、バリュー株に対して強気の見方が相次いで示された。ゴールドマン・サックスは11日付リポートで「V(バリュー)字型回復」と表現し、ロックダウンの緩和とワクチン接種の開始により、2021年第1四半期末以降、経済成長率は著しく加速するとの見通しを示した。また、2000年代半ば以降のローテーションは「一般的には短命」であったと振り返りつつも、今回のローテーションについては「過去平均の4カ月よりも長続きする」と予想した。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券は10日付リポートで、「ワクチンの開発が成功し、コロナウイルスが経済に与えるダメージが払しょくされることで、経済の実力、『潜在成長率』が大幅に回復することが見込まれる」と指摘。この上で、「潜在成長率の見方が上方修正される局面では株価はバリュー・リバーサルの様相を強める公算が極めて大きい」との分析を示した。
■景気回復と金利上昇が必要
一方、バリューへのローテーションにやや慎重な見方もある。JPモルガンは17日付リポートで、モデルナの発表はファイザーの発表直後に比べて市場への影響が限定的だったと指摘。ワクチン開発だけでバリューへのローテーションを拡大するにはハードルが高くなっていることから、大統領選後に延期された追加経済対策や経済指標の改善に依存するとの見方を示した。
ウルフ・リサーチも12日付リポートで「今後は財政刺激策の遅れと失望、感染率の上昇、景気後退の再開、財政硬直化の可能性が高いといった状況に直面することで、リバーサル基調はフェードアウトしていくだろう」と予想した。
また、現場のトレーダーからは「そもそも、コロナ前の状況に戻るだけでは不十分であり、そこから先、さらにバリュー株が買われるには力強い景気回復と金利上昇を伴う必要がある。コロナの逆風を受けた企業は、コロナ後も厳しい経営環境が続くだろう」(外資系証券)との声も聞かれた。
■銘柄選別が一層進む可能性
11月以降のバリュー株が上昇する局面では、銘柄選別も進んだ。TOPIX500構成銘柄のうち低PBR(株価純資産倍率)100銘柄をバスケット化したものと、TOPIXスモール指数構成のうち低PBR100銘柄を同じくバスケット化し、年初来騰落率の推移を算出したところ、直近では小型株の低PBR銘柄が出遅れている様子が伺える。
にわかに期待の高まったバリュー・ローテーションだが、当面は一律でバリュー株が物色されるというより、銘柄選別が一層進む可能性がありそうだ。なお、BofAセキュリティーズはロングオンリー勢がアンダーウエートしている金融・エネルギー・素材が、セクター・ローテーションの一環で恩恵を受ける可能性があると予想した。
余談ではあるが、TOPIXスモール指数の高PBR銘柄群(100銘柄)、いわゆる小型グロース株は年初来で驚異的な株価パフォーマンスを記録している。
<金融用語>
PBRとは
PBRとは、Price Book-value Ratioの略称で和訳は株価純資産倍率。PBRは、当該企業について市場が評価した値段(時価総額)が、会計上の解散価値である純資産(株主資本)の何倍であるかを表す指標であり、株価を一株当たり純資産(BPS)で割ることで算出できる。PBRは、分母が純資産であるため、企業の短期的な株価変動に対する投資尺度になりにくく、また、将来の利益成長力も反映しにくいため、単独の投資尺度とするには問題が多い。ただし、一般的にはPBR水準1倍が株価の下限であると考えられるため、下値を推定する上では効果がある。更に、PER(株価収益率)が異常値になった場合の補完的な尺度としても有効である。 なお、一株当たり純資産(BPS)は純資産(株主資本)を発行済株式数で割って求める。以前は「自社株を含めた発行済株式数」で計算していたが、「自社株を除く発行済株式数」で計算する方法が主流になりつつある。企業の株主還元策として自社株を買い消却する動きが拡大しており、より実態に近い投資指標にするための措置である。