【NQNニューヨーク 岩本貴子】11月23日の米債券市場で長期金利の指標となる10年債利回りが上昇(債券価格は下落)し、前週末比0.03%高の0.85%で取引を終えた。新型コロナウイルスに対するワクチンの開発進展が伝わっても、長期金利の上昇の勢いは鈍い。引き続き短期的な米景気の先行き懸念の根強さが、上昇を抑えている。
■「接種しないかもしれない」
ワクチンに関する前向きなニュースは続いている。英製薬のアストラゼネカは23日、オックスフォード大学と共同開発する新型コロナウイルスのワクチンについて、臨床試験で最大90%の有効性を確認したと発表した。
すでに米製薬のファイザーやモデルナが開発中のワクチンについても高い有効性が示されている。CNNは22日、米政府でワクチン開発を指揮するチームのモンセフ・スラウイ首席顧問の発言として「すべてが計画通りにいけば、米国民へのワクチン接種は早ければ12月第2週にも始まる」と伝えた。
ただスタイフェル・ニコラスのリンゼイ・ピエグザ氏は「ワクチンの承認、生産、配布のすべての計画がうまくいくと仮定しても、適用には疑問が残る」と指摘する。米調査機関ピュー・リサーチ・センターが9月に実施した調査によると、米国の成人の半数近くが「もし新型コロナワクチンが入手できるようになっても接種しないかもしれない」と答えた。接種が広がらなければ、人の移動を伴う経済活動の再開加速は難しい。
■「米景気は大きく減速するか、マイナス成長」
コロナまん延を防ぐための経済活動の制限に伴う短期的な景気への悪影響への懸念も根強い。IHSマークイットが23日公表した11月の米購買担当者景気指数(PMI、総合)の速報値は前月より1.6ポイント高い57.9まで上昇した。ただ、各国が店舗営業の規制などを相次いで導入したことでサービス業を中心に景況感が冷え込んだユーロ圏の11月のPMIは前月から低下し、節目の50を大きく下回った。「ユーロ圏の域内総生産(GDP)が10~12月に再び縮小する可能性が高まった」(IHSマークイット)。
米国では米疾病対策センター(CDC)などの警告にも関わらず、間近に迫る感謝祭休暇に伴って人の移動が増えている。米運輸保安局(TSA)によると22日時点で104万人以上が米国の空港を通過し、3月中旬以来の高水準となった。感染拡大で各州や都市が経済活動の制限を強めれば、景気減速のリスクは高まる。
JPモルガンは感染拡大が米景気減速につながるとして、2021年1~3月期の実質GDPが前期比年率1.0%減になるとの見通しを示した。スタイフェルのピエグザ氏も「米景気は大きく減速するか、マイナス成長となって2度目の景気後退入りに向かう可能性がある」と警戒する。コロナの感染拡大の景気への影響を見極めるまでは、投資家が米国債の持ち高を大きく減らすことは難しそうだ。
<金融用語>
PMIとは
景気の方向性を示す経済指標で速報性の高さから金融市場で注目される。正式名称はPurchasing Managers’ Index(購買担当者景気指数)。 企業の購買担当者に新規受注や生産、雇用の状況などを聞き取り、景況感についてアンケート調査した結果を指数化したもの。50を判断の分かれ目としてこの水準を上回る状態が続くと景気拡大、逆に50を下回る状態が継続すると景気減速を示す。製造業と非製造業に分けて発表されるが、主に製造業の動向が着目される。 PMIは世界各国で集計・発表されている。近年では世界経済を左右する中国の結果が話題になることが多い。中国では中国国家統計局と中国物流購入連合会が共同で調査しているものと、中国のメディアグループである財新と英国の金融情報・調査会社のIHSマークイットが独自でまとめたものの2種類がある。