【NQNニューヨーク 戸部実華】米長期金利が再び1%に接近している。12月2日の米債券市場で長期債相場は続落し、米長期金利の指標となる10年物国債利回りは前日比0.01%高い0.93%で終えた。新型コロナウイルスのワクチン普及で経済の正常化が進むとの見方や追加経済対策が景気を下支えするとの期待が、感染拡大に伴う景気懸念を上回った。
■ワクチン接種と経済対策成立に期待
米民間雇用サービス会社ADPが2日発表した11月の全米雇用リポートで、非農業部門の雇用者数は前月から30万7000人増と、10月の40万4000人増から伸びが鈍化した。市場予想(47万5000人)も下回り、「新型コロナ感染を抑えるための規制で一時解雇(レイオフ)がさらに増えることがリスクだ」(ハイ・フリクエンシー・エコノミクス)との先行き不安の声もあった。
それでも相対的にみて安全資産とされる米長期債には売りが優勢だった。米長期金利は一時0.96%と約3週ぶりの高水準を付けた。11月上旬に1%に迫った後は上昇が抑えられてきたが、RWプレスプリッチのラリー・ミルスタイン氏は「新型コロナワクチンの接種が早期に始まるとの観測と米追加経済対策が成立するとの見方が流れを変えた」と話す。
英当局は2日、米製薬のファイザーと独ビオンテックが開発する新型コロナワクチンの使用を承認し、7日にも接種を開始する予定となった。米国では今月中旬にも接種が始まる見通しだ。米疾病対策センター(CDC)の有識者委員会は1日、医療関係者や介護施設の居住者から接種する指針案を決めるなど具体的な計画が進められている。
1月にバイデン新政権が発足するまで合意が難しいとの声があった追加経済対策を巡り、米与野党議員が1日に9080億ドル規模の超党派の案をまとめた。民主党のペロシ下院議長は2日、同案をたたき台として議論を始めるように共和党のマコネル院内総務に要請したと伝わった。両党の歩み寄りがみられるうえ、足元で失業者数が増えていることを背景に、市場では「失業手当などを中心に1兆ドル規模の対策が実現するだろう」(RWプレスプリッチのミルスタイン氏)との期待が再び芽生えた。
■21年末の米金利予想は1.75%
バークレイズは2日付のリポートで2020年の世界の経済成長率はマイナス3.6%とみる一方で、ワクチン普及による経済活動の正常化を背景に21年の成長率は5.6%に回復すると予想した。米国みずほ証券のスティーブン・リチウト氏は21年末の10年物利回り予想を1.75%と見込むなど、景気回復を織り込んで来年にかけて米長期金利は上昇しやすくなるとの見立てが多い。
来年の景気持ち直しを見込んで物価上昇期待が高まりつつあるのも長期債売りを誘う面があった。債券市場における物価の見通しを反映するとされる「ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)」は1日に1.80%台前半と19年5月以来の高水準となった。新型コロナのまん延を受けて0.50%台まで低下した3月から大幅に上昇した。
前週の感謝祭を経て、今後新型コロナ感染者数が急増するとの懸念もある。当面は経済指標の悪化が予想されるが、市場はその先の景気回復を見込んだ債券売りに傾きやすくなっている。「目先の10年物利回りは3月中旬の水準1.20%付近を試す余地がある。ただ急速な上昇で米連邦準備理事会(FRB)が2週間後の米連邦公開市場委員会(FOMC)で買い入れ国債の年限長期化などに動けば1%を下回る水準に戻りそうだ」(アクション・エコノミクスのキム・ルパート氏)など、市場関係者は慎重に水準の変化を探ろうとしている。