【QUICK Market Eyes 大野弘貴】記録的な上昇となった11月から一変し、12月は上値の重い展開が続いている。新型コロナウイルスのワクチン開発進展もあり来年に更なる株価上昇も期待できるとの見方が多く聞かれる一方、年内にかけてダウンサイドリスクを指摘する声も聞かれた。各主体のポジショニングをもとに、短期的な相場の方向性を推測してみたい。
■投資主体別ポジショニング
ドイツ銀行が集計する株式のポジショニング推計を確認すると、12月4日時点で全主体を合算したZスコア(平均0、標準偏差1)は76パーセンタイルまで上昇した。3月の安値から比較すると80パーセンタイルも上昇した。相応に株式のロング・ポジションが拡大したものの、「明らかに高いが、まだ極端ではない」(4日付リポート)という。
投資主体別にみると、裁量投資家のポジショニングは90パーセンタイルまで上昇し、かなり高い水準に位置した。一方、システム運用は30パーセンタイルと「まだ低い」状態に位置しているとの推計も示されている。
「VIXは米大統領選前の40超から20台まで低下してきた。20を割り込むことでリスク・パリティの買いも期待できる」(国内証券)との声も聞かれた。
トレンドフォローのCTA(商品投資顧問)については、株式エクスポージャーが着実に積み上がっており、過去レンジの中央までポジショニングが戻ったとも指摘している。
■リバランスのリスク
11月は米大統領選という不確実性の高いイベントを通過したことに加え、新型コロナウイルスのワクチン開発に進展が見られたことで株式ファンド全体に月間としては過去最高となる1220億ドルが流入したと集計した。バリュー型ファンドに大幅な資金流入が見られる中、年初来で安定的に資金が流入していたESG(環境・社会・ガバナンス)型への資金流入傾向も変化がなかったとも示されている。
株式への買い余力はまだあると推計される一方、12月に入って株式市場の上昇はペースダウンした。
ゴールドマン・サックスは7日付リポートで、ドイツ銀行同様、独自に算出した株式のポジショニングが平均より2標準偏差上回る位置まで拡大していると指摘。足もとで過熱気味であることと、米国で新型コロナウイルスの入院患者数が急増していることや経済指標が予想を下振れていることから、短期的には株式リターンへの逆風となる可能性があるとの見方を示した。
JPモルガンも4日付リポートで年末にかけてミューチュアルファンドや年金基金のリバランスが発生することにより、株式に対してダウンサイドリスクがあると指摘した。
■やや高まる調整リスク
年内、株式市場の調整を予想する声が聞かれる中、個別株オプションでコール残高が急増している点も気がかりだ。シカゴ・オプション取引所(CBOE)が算出した個別株のプット・コール・レシオ(プット残高をコール残高で割って算出)は12月3日に0.35まで低下した。今年最低を更新し、2010年4月14日の0.32以来の低水準となった。8月26日は同指数が0.39まで低下したが、その後ナスダック総合指数中心に株式市場は調整に見舞われていた。足もとの個別株の上昇もリアルマネーによる買いではなく、コール増加に伴うデルタヘッジの買いが押し上げている可能性もぬぐい切れない。
年末を前に、足もとの株式市場はやや調整リスクが高まっていると言えそうだ。それでも、ゴールドマンは「今後、米個人のMMFから5000億ドルを超える資金流出が発生し、かなりの額が株式に向けられる可能性がある」(7日付リポート)としたほか、JPモルガンも「中期的な株式のポジショニングは中立圏に位置しており、短期的な調整は押し目買いの機会となる」(4日付リポート)とそれぞれ予想した。
明日のメジャーSQを前に日本株も不安定な値動きが続いているが、ここからもう一段階上昇するには年明け以降に持ち越しの可能性もありそうだ。
<金融用語>
ミューチュアルファンドとは
ミューチュアルファンドとは、米国における一般的なオープンエンド型投資信託。会社型と契約型の2つの形態があるが、米国では会社型が大半を占めている。