【QUICK Market Eyes 弓ちあき】今年も残すところあと2週間ほどとなった。新型コロナウイルス感染症の新規感染者数の増加傾向は気になる中でも株式市場は大きな調整はなく、底堅さを保ったまま大納会を迎えそうな気配だ。支えとなっているのが接種も始まったワクチン接種による2021年の感染抑制。そして環境関連銘柄への資金流入だ。
■新型FCV発表でトヨタ株1割上昇
中でも目立ってきたのが、燃料電池車(FCV)への物色だ。トヨタ自動車(7203)は12月9日にFCV「MIRAI(ミライ)」の新型車を発売。従来に比べ1回の水素充てんでの走行距離が従来比3割増となる850キロメートルに伸びたほか、価格も約30万円安い710万円からとなる。エコカー補助金を使えば570万円程度まで実質的に取得コストが下がる可能性もあり、概念が先だった先代から、ぐっと身近になってきた感がある。
新型ミライの発表もあり、トヨタの株価は1割あまり上昇している。新型コロナ感染拡大を受け本格的に株価調整が進む前の2月6日に付けた年初来高値(8026円)は視界に捉えつつある。
■21年に向けて注目を集めるテーマに
関連銘柄の物色は波及している。QUICKの特設サイト「QUICKテーマ株」で「水素エネルギー」の構成銘柄23銘柄の過去5営業日の平均騰落率は約7%。TOPIX(東証株価指数)の0.1%を大きく上回っている。
FCV普及には水素スタンドなどのインフラ整備が不可欠となる。「水素エネルギー」関連の上位銘柄には水素ステーション向け圧縮機で納入実績のある加地テック(6391、2部)や水素ステーションを手掛ける三菱化工機(6331)などが入っている。
また、政策への働きかけも加速している。7日にはトヨタや岩谷産業(8088)など9社が旗振り役となって「水素バリューチェーン推進協議会」を設立した。同日時点では88社が参画しており、2021年1月~2月に水素普及に向けた論点出しや政策提言に向けた情報収集を行って政府への提言を行うという。21年に向けても注目を集めるテーマになりそうだ。
■車載部品メーカーの再編
また銘柄物色の観点では、加速している部品メーカーの再編にも注目してみたい。電動化やつながる車など「CASE」対応が加速する中で、開発力の強化とコスト削減の両立が求められている。コスト削減を進める中では規模の拡大が重要だ。
日本電産(6594)のように完成車メーカーを特定せずに幅広く車載機器の品揃えを強化する企業が出るほか、電動化の流れの中で自動運転に欠かせない慣性力センサーなど多くの製品を手掛ける村田製作所(6981)など電子部品大手の存在感は高まっていく公算が大きい。
本田技研工業(7267)は系列の部品企業3社を完全子会社化した上で日立製作所(6501)の車載部品子会社と経営統合し、日立が統合新会社の親会社となって主導権を握る経営体制を選んだ。
■トヨタの自動車部品関連会社は?
今のところトヨタに関しては、系列部品大手を軸に再編が進んでいる。19年にはデンソー(6902)は愛三工業(7283)への出資比率を引き上げ、エンジン関連部品を集約してCASE関連への経営資源集中を進めたほか、アイシン精機(7259)は変速機大手の子会社アイシン・エィ・ダブリュと経営統合を決めた。直近ではデンソーが表示装置などを手掛けるジェコー(7768、2部)を株式交換で完全子会社化する。
20年3月期の有価証券報告書で確認できる主なトヨタの部品事業の関連企業を挙げた。
このほか、アイシン精が約15%を出資するクラッチのエクセディ(7278)やトヨタの連結子会社である日野自動車(7205)が筆頭株主でデンソーも9.3%を出資するトラック関連の沢藤電機(6901)なども含めれば自動車部品メーカーの裾野はさらに広い。20年度は新型コロナによるマイナス影響も大きかったこともあり再編の波が続くか引き続き注視したい。
CASE対応の流れの中で、完成車メーカーの立場で見れば部品採用は従来の系列の枠でとどまっていては大きく出遅れかねない。一方で部品メーカーの立場で見れば大きく事業環境が変化する中で新たな商機が拡大していく時期が近づいている。
■デンソー系列離れか
デンソーの株価は12月に入り、2割近く上昇しており、輸送機器の中でも堅調さが目立っている。
ADAS(先進運転支援システム)のトヨタ以外への販売拡大や開発投資の一巡に伴う収益性向上への期待が高まっているもよう。証券会社の投資判断引き上げもここにきて相次いでいる。21年、自動車部品株は株価でも系列離れが加速する可能性が高まっている。