【聞き手はNQN香港 安部健太郎】韓国の代表的株価指数である総合指数(KOSPI)は11月以降、過去最高値の更新が続く。半導体輸出などが上向いてきており、韓国銀行(中央銀行)は11月に2021年の国内総生産(GDP)予想を前年比3%増に引き上げた。韓国のトラストン・アセット・マネジメントの李元善専務リサーチ本部長は、21年も韓国など新興国株への資金流入が続くと予想する。
■韓国輸出、21年は本格上昇 半導体産業も恩恵
――KOSPIは12月に過去最高値(2778)を付けました。21年の韓国株式相場はどうなると見ていますか。
「過去10年間、世界の株式相場変動の要因として作用してきた通貨政策の影響力が小さくなり、代わって各国の財政政策を通じた景気回復のモメンタム(勢い)が大きくなると見込まれる。通貨政策が中心だったときは総需要の増加は期待できなかったが、財政政策が主軸となれば増加が期待できる。特に(バイデン新政権での)米国の財政支出の拡大はドル安基調につながり、世界的な景気回復と需要増に敏感な新興国株投資の魅力が高まりそうだ。KOSPIは21年に2350~2900での推移を見込んでいる」
「グローバルな景気回復と原油価格の安定を考えると、景気敏感株が有望だ。韓国ではIT(情報技術)、自動車、機械、化学などの業種が企業業績の改善幅が最も大きくなると予想される」
――サムスン電子やSKハイニックスなど半導体産業の出荷動向、韓国の輸出の先行きはどうでしょうか。
「コロナ禍のなかで、世界各国が財政支出の拡大によって景気を浮揚させようとしており、グローバルな総需要を増加させることができるだろう。世界の貿易量は3年ぶりに増加に転じると予想している。韓国の輸出は世界経済の動向に敏感で、21年は2年ぶりに本格的な上昇基調になるとみている」
「これまで低調だった企業の投資活動が活発になり、半導体産業も恩恵を受けそうだ。韓国の半導体産業の営業利益は、21年は合計で前年から30%増加し、22年は26%増になると予想している」
■バイデン氏、国際ルール構築で中国に圧力 緩やかなウォン高も
――韓国銀行は5月に政策金利を過去最低の0.5%に引き下げた後は、据え置いています。
「韓国政府は実体経済が回復する前に、住宅など資産市場が過熱することを警戒している。20年9月末時点で家計債務の規模はGDP比で88%と高水準だ。だが(韓国経済が上向いても)利上げに転じるのではなく、新規融資の規制や融資条件を厳しくするなどの手法で過剰流動性をコントロールしていくと思われる」
――世界的な新型コロナウイルスの感染拡大の影響から脱することができるのは、いつごろになりそうでしょうか。
「ワクチンがスムーズに供給される時点でピークアウトに向かうだろう。韓国では21年上半期中になるとみられている。国境をまたいだ人の移動は、世界のなかではコロナ対策が比較的成功している韓国、日本、中国は急速に正常化が進みそうだ。時期はワクチン接種者が一定程度を占めるようになる21年4~9月ごろになるのではなかろうか」
――中国と米国はともに韓国にとって重要な貿易相手国です。貿易摩擦など米中対立に変化は起きそうでしょうか。
「バイデン次期大統領は中国への直接的な制裁はせず、米国がリーダーシップを発揮して新たな国際社会のルールを構築することにより、間接的に中国をけん制する政策を推進していくと思う。バイデン氏は中国の不公正な貿易慣行(国営企業への補助金、知的財産権の侵害、為替操作など)を改めさせる必要性があるとしているが、制裁関税を課すのではなく、同盟国との連携が重要であると強調している」
「一方で中国は、米中貿易戦争の過程で国内市場の成長、資本市場の開放などを新たな目標として掲げた。このため元高の進行を容認していると思われる。これに伴い韓国の対中輸出が回復する一方で、(対米ドルでは)緩やかなウォン高が続くとみている」
――北朝鮮の核兵器開発や弾道ミサイル発射といった地政学的リスクについては。そのほか、来年のリスク要因は何だとみていますか。
「バイデン政権の外交政策はまだ具体化されていないため、北朝鮮情勢は現段階では予想しにくい。金融市場に関するリスクとしては、世界で流動性が潤沢なことによって物価が予想を上回るスピードで上昇し、金利も上昇する事態が生じてしまうかもしれない」
<李元善氏の略歴>
1994年入社の韓国の大宇経済研究所を皮切りに、INGベアリング証券、トーラス証券リサーチセンター長などを経て、14年にトラストン・アセット・マネジメントへ移籍。専務リサーチ本部長として、韓国のマクロ経済や市場分析部門を率いている。