【日経QUICKニュース(NQN) 寺沢維洋】7日の東京株式市場で、エイチ・アイ・エス(9603)株が続伸し、一時、前日比84円(5.5%)高の1607円まで上昇した。モルガン・スタンレーMUFG証券が6日付で投資判断を3段階で最上位の「オーバーウエート」として調査を開始し、手掛かりにした買いが集まっている。外出を控える流れは当面続きそうだが、レジャー需要を中心としてビジネスモデルは需要回復の過程で投資妙味が期待できそうだ。
■株価は悪材料を織り込んだ
「ワクチンの普及により世界的に旅行需要が回復に向かう前提に立てば、22年10月期には過去最高の営業利益が視野に入る」。モルガン・スタンレーMUFG証券の担当アナリストの尾坂拓也氏は同日付のリポートでこう言い切った。目標株価は2600円と、足元の水準から6割程度高い水準に設定した。
緊急事態宣言の再発令などを控え事業環境は依然として不透明感が強いが、「現在の株価水準は相当程度の悪材料を織り込んでおり、投資タイミングはまだ早いものの中長期のリスクリワード(リスク対比の運用収益)は魅力的」と尾坂氏は説明する。
かなり強気にみえる分析だ。HISは言うまでもなく、コロナ禍で低迷が続いてきた銘柄の代表格。一時は政府の旅行需要喚起策『Go To トラベル』などを支えに持ち直す場面もあったが、海外渡航分を補うには不十分で、20年1月の高値(3085円)に比べ3~5割安の水準で推移している。
ただ、強気見通しも経営環境を丁寧に見ていけば説得力はある。コロナ後の移動需要の回復過程では投資妙味も見えてくる。
■ビジネスよりレジャー優位
ポイントの1つはHISが取り扱う旅行の客層の違いだ。HISはビジネス需要よりもレジャー需要が中心。ワクチンの普及によって旅行目的の移動需要は22年度にもコロナ前(19年度並み)の水準を回復するとみられる。HISの収益の柱である海外旅行事業では、尾坂氏は売り上げの8割程度がレジャー需要で構成されていると試算。航空会社の国内・国際線(6割強)や新幹線(4割弱)に比べ高水準であることから、他の旅客系企業に比べ需要回復で大きな恩恵を享受できる可能性があるとみる。
テレワークやオンライン会議の定着を背景に「ビジネス目的の移動需要は相対的に回復が遅れる」(国内証券の投資情報担当者)との見方がある。
もう一つのポイントは、構造改革の成果が期待できることだ。HISは販管費削減のため国内外で実店舗の統廃合を進めている。20年11月~21年1月期には営業拠点数を154店(20年10月末は212店)まで削減する計画を示している。採用人数の抑制も実施しており、旅行需要が回復する22年10月期でも販管費比率は過去最低の水準にとどまるとみられる。
※2019年末を100としてHIS、日経平均株価、JAL、ANA、JR東日本、JR西日本の株価を指数化
日経平均株価が上昇基調を維持する一方で、旅行関連株は苦戦が続く。19年末から6日までの株価騰落率は日本航空(9201)は42.7%安、ANAホールディングス(9202)は39.6%安、JR東日本(9020)は33.6%安、JR西日本(9021)は44.3%安で、HISはさらに下を行く51.4%安に沈んでいる。市場は今後、これを割安感とみて買いに進むかどうか。投資家のマインドをはかる物差しになるかもしれない。