【NQNニューヨーク 川内資子】1月19日の米国債市場で長期金利の指標となる10年物国債利回りは前営業日より0.01%高い(価格は安い)1.09%で終えた。米次期財務長官に指名されたイエレン前米連邦準備理事会(FRB)議長が19日に上院公聴会での証言で、追加の経済対策の必要性を強調し債券売りが優勢となる場面があった。ただ、昨年末以降の米長期金利の急ピッチの上昇には一服感が漂い、今後の金利の方向感は米経済の動向次第とのムードも出始めている。
■財源確保より経済回復
イエレン氏は公聴会で「追加の経済対策が実現しなければより長く痛みを伴う景気後退をもたらし、長期では経済に傷を残すことになる」と主張した。追加経済対策が米財政赤字を拡大させることは認識しているとしながら「金利が歴史的な低水準にある現状で最も賢いのは大きく行動することだ」と大規模な財政出動の重要性を強調した。新型コロナウイルスの感染拡大で低所得者層が大きな悪影響を受けていると指摘し、追加策で低所得者層の早期の持ち直しによる持続的な景気回復を促すのが賢明との認識を示した。
財源については先行きの緩やかな増税を示唆した。「企業や富裕層が公正に課税を負担するのが非常に重要だ」とする一方、バイデン氏は2017年の減税前の水準に法人税を上げることは考えていないと強調した。米企業が競争力を保つことの重要性も指摘し、他国と協力して法人税の引き下げ競争に対処する姿勢を示した。目先は財源確保より経済回復を優先する姿勢を強調した形だ。
基軸通貨ドルについては「為替レートは市場が決めるものだ」とする一方、他国の通貨安誘導は「決して容認できない」とけん制した。中国については「米国にとって最も重要な競争相手だ」とし、中国の不公正慣行には「あらゆる手段で対抗する」と厳しい姿勢を示した。イエレン氏は党派を超えて米議員の信任が厚く、承認されるのは既定路線だ。証言はバイデン氏の経済政策の方針をなぞる無難な内容で「次期政権の政策の売り込みを悠々と務めた」(FHNファイナンシャル)との指摘が多かった。
■「金利再上昇は実体経済の回復に進展出てから」
イエレン氏は50年債など超長期債の発行の可能性に言及し、長期債の増発による需給悪化を意識した債券売りを促す場面があったが続かなかった。昨年末に0.91%で終えた10年債利回りは年明けのジョージア州での連邦議会上院の決選投票結果を受け、大規模な追加経済対策の実現を見込み前週に1.18%まで急上昇していた。だが、前週実施の10年債入札でしっかりとした需要が確認され、金利上昇に一服感が出ている。市場では「金利が今後再び明確に上昇するのは実体経済の回復に向けた進展が出てから」(BMOキャピタル・マーケッツのイアン・リンジェン氏)との声が聞かれ始めた。
キャピタル・エコノミクスのポール・アシュワース氏は「米財務長官は複雑な存在だ」と指摘する。1995年から長官を務めたロバート・ルービン氏のように大きな力を持つ人もいれば、2001年からのポール・オニール氏のように政権のセールスマン的役割にとどまる人もいるという。他国に比べて米国では財政政策に関して議会の権力が強いためで、議会との調整力や政権内の政策策定の指導力で差が出やすいためだ。
イエレン氏はFRB議長に加え、クリントン政権時代にはホワイトハウスのチーフエコノミストである米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めた。財務長官になれば経済関連の要職3つを務めた史上初の人物となる。公聴会は無難にこなし債券相場への影響も限られたが、長官就任後に指導力を発揮し、相場に大きな影響を与える可能性も想定しておいた方がよさそうだ。