昨年のクリスマス・ホリデーのショッピングシーズンに、独ESG評価会社アラベスクでロンドン在住の同僚トーマスから、次のようなEメールをもらった。
“As you might know Uniqlo (one of my favorite shops, obviously Japanese) has launched a Jil Sander Collection +J of men’s business suits, which is just the most amazing minimalist Fashion for very little money. Sadly it sold out in Europe within minutes and I did not get my hands on two trousers, which are still available on the Japanese Online Store.”
「知ってるかもしれないけど、(私のお気に入りの店の一つで、あの有名な日本ブランドの)ユニクロがメンズ・ビジネス・スーツの『ジル・サンダー・コレクション+J』を発売したんだ。このコレクションは、極めて低予算で最も素晴らしいミニマリスト・ファッションを実現できる。残念なことに、ヨーロッパではそのコレクションは数分で売り切れてしまった。それでも、日本のオンラインストアであればまだ私の欲しかった2本のズボンを購入することができるんだ」
■コロナ禍で売れ筋商品を開発するユニクロの強さ
このメールのやり取りの後、私はユニクロの日本のオンラインストアで、トーマスのために購入手続きを試みたのだが、日本でも売り切れになってしまい、結局、購入することができなかった。
この件で私には2つの驚きがあった。ユニクロ・ファンには怒られてしまうかもしれないが、新型コロナウイルス禍でアパレル苦境と言われているなか、ヨーロッパだけでなく日本でも完売してしまうような売れ筋商品をユニクロが開発しているということが一点。そして、ズボン2本のためにトーマスがわざわざ筆者にクリスマス・ホリデー中に連絡してきたことである。まず、後者については、恐らくトーマスがお洒落であることと、彼のメールにあった「ミニマリスト」という言葉がヒントになるであろう。自分に必要最小限の服でお洒落を追求するミニマリストにとってユニクロの商品は心に刺さるのだろう。
一方、一つ目の驚きである前者については、ユニクロを展開するファーストリテイリング(以下、ファストリ)の商品開発力の強さを示していると思われる。そこで、本寄稿では、ファストリの企業価値とアラベスクS-RayのESG(環境・社会・企業統治)スコアについて、競合他社と比較してみたい。
ファストリの競合企業については、同社のウェブサイトのIR情報の業界のポジションのページから抜粋した。このページに同社を含めて11社の企業の売上高の比較が掲載されている。ここでは、11社の中から売上高上位5社(ファストリは第3位)を比較していきたい。
■ファストリ、この1年でESGスコアが大きく上昇
2020年1月1日から2021年1月15日のおよそ1年余りで、アパレル大手5社のESGスコアは大きく変動したことが分かる。新型コロナの感染拡大が世界規模になる前の2020年初では、ZARAを擁するスペインのインディテックスのESGスコアがトップで、ファストは2位だった。
ところが、1年後の今年1月15日のESGスコアの両社の順位は入れ替わった。ファストリはこの1年の間にスコアを約7.5ポイント(プラス13%)上昇させ65点を上回った。一方、インディテックスは約4ポイント(マイナス6.5%)下落し、60点を下回った。売上高ではファストリを上回るスウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)もESGスコアを下げた。米ギャップは1年を通じてほぼ変わらずで、売上高5位の米エル・ブランズはファストリと同じようにESGスコアを上げた。ESGスコアでみると、これら大手5社はこの1年間で明暗を分けることとなった。
■ファストリの時価総額、首位インディテックスを猛追
それでは、これら5社の企業価値(時価総額)の推移をみていこう。
時価総額のこの1年間の推移も、ESGスコアと同じような傾向が確認できる。アパレル大手5社の2020年年初の時価総額トップはインディテックスの1105億ドル(約11.4兆円)で、第2位のファストリの617億ドル(約6.4兆円)を500億ドル上回っていた。
しかし、1年後の2021年1月15日の両社の時価総額の差は50億ドル程度まで縮まってきた。この1年間、インディテックスの時価総額は約1割減少した半面、ファストリは5割増加した。コロナ禍で人々の生活がシンプルになり、低予算で本当に必要な最小限のモノでお洒落を楽しめれば良いという雰囲気が消費者に広がったことがファストリの躍進につながったのであろう。また、そのファストリを上回る企業価値向上を遂げたのはエル・ブランズである。エル・ブランズは女性をターゲットとしたルームウエアやパーソナルケア商品に特化したことが功を奏したのではないか。
■Sスコアの上昇が著しいファストリ、時価総額首位達成に注目
最後に、コロナ禍でESGスコアが上昇し、時価総額も増加したファストリのESGスコアの詳細をみていきたい。同社ESGスコアのサブスコアはいずれもこの1年で上昇している。特に「S(社会)」の上昇が著しい。Sの中でも「従業員のクオリティ」という項目の上昇が目立った。競合他社4社の同項目が大きく下落する中でファストリは大幅に上昇した。他のSに属する項目のスコアも全体的に上昇しており、ファストがコロナ禍でSに注力してきたのではないかと考えられる。
過去1年のアパレルの世界大手5社のESGスコアと時価総額をみてきた。両者に因果関係があると言い切る事はできないが、ESGスコアが上昇したファストリやエル・ブランズは企業価値も増加を示した一方、ESGスコアが低下したインディテックスは時価総額が減少するなど、一定の相関関係はみられる。このことから、企業価値の増加にESGの取り組みは影響を及ぼすようになってきているのではないだろうか。
世界における日本企業の存在感が弱まる傾向にある中、ESGスコアが上昇トレンドにあるファストリの時価総額の世界首位達成を期待したい。(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)
雨宮 寛(あめみや・ひろし)
アラベスクS-Ray社日本支店代表。アラベスク・グループの日本事業の責任者。アラベスク以前は外資系金融機関で運用商品の開発に従事。CFA協会認定証券アナリスト。一般社団法人日本民間公益活動連携機構アドバイザー、明治大学公共政策大学院兼任講師。NPO法人ハンズオン東京副代表理事。ハーバード大学ケネディ行政大学院(MPA)、コロンビア大学経営大学院(MBA)。