7月23日の東京オリンピック開会式まで6カ月を切ったものの、開催に懐疑的な見方は消えない。開催するにしてもどのような大会となるのか、イメージは全く掴めていない。それでも中止の決定権を持つ国際オリンピック委員会(IOC)は開催を目指すのではないか。IOCの総収入に対し、五輪の放映権料は年平均で66.5%に達する。東京オリンピックを中止する場合、IOCの財務状況が急激に悪化しかねない。
コロナ対策で膨らむ費用
日本の事情はそれほど単純ではないだろう。大会組織委員会が昨年12月22日に公表した予算案(バージョン5)によれば、オリンピック、パラリンピックの総支出は1兆6440億円だ(図表)。2019年末のバージョン4の段階では1兆3500億円だったが、開催が1年延期され、新型コロナの対策費が加えられたことで、総額は2940億円増加した。組織委員会が7210億円、東京都が7020億円、国は2210億円を負担する。
図表:東京2020大会組織委員会による予算(バージョン5)
出所:東京2020大会組織委員会の資料よりピクテ投信投資顧問が作成
2019年12月4日、会計検査院は「東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取組状況等に関する会計検査の結果」を発表した。2013~18年度までの6年間に国は大会関連経費を1兆600億円支出している。この一部は組織委員会の予算には反映されていない。さらに、東京都は関連経費を約8000億円見込んでいる。その結果、東京オリンピック・パラリンピックの実質的な費用は総額で3兆円を超える規模になるだろう。
新型コロナの感染リスクを抑制するため、仮に海外から観客を呼び込むことができない場合でも、オリンピックが開催されればIOCは放映権料が手に入る。一方、それでは五輪関連のイベントを訪日客拡大の起爆剤と想定してきた日本側にとって、巨額のコストを負担してきただけに大きな痛手になる。
五輪後に衆院解散
内政面から考えた場合、菅義偉首相はオリンピック・パラリンピック閉会後の9月、衆議院を解散する意向と見られる。仮に五輪がキャンセルとなれば、政治的に大きなダメージだ。従って、政府としてもIOCと共に何らかの形での開催を目指すだろう。もっとも、どのような形で開催するかを早期に明らかにしなければ、選手や関係者だけでなく、関連する企業も動揺や疲弊が避けられない。特に外国人の観客に関連する企業には、死活問題と言える。
いずれにしても、昨年3月、安倍晋三前首相が語った「完全な形」での五輪は既に困難なのではないか。IOCや日本政府、東京都、組織委員会が開催を決めても、一部の国や競技団体、個々の選手が安全性への懸念から参加をためらうことも考えられる。だとすれば、どのような形、規模になるにせよ、それは菅政権へのダメージとなる可能性は否定できない。さらに、経済的にみても、五輪にコストに見合う大きな効果を期待するのは難しそうだ。
ピクテ投信投資顧問シニア・フェロー 市川 眞一
クレディ・スイス証券でチーフ・ストラテジストとして活躍し、小泉内閣で構造改革特区初代評価委員、民主党政権で事業仕分け評価者などを歴任。政治、政策、外交からみたマーケット分析に定評がある。2019年にピクテ投信投資顧問に移籍し情報提供会社のストラテジック・アソシエイツ・ジャパンを立ち上げ。
東京五輪が中止なら半年後の北京冬季五輪も中止の可能性が高まりまそうですし