【日経QUICKニュース(NQN)編集委員 永井洋一】米株式市場で赤字のビデオゲーム販売店ゲームストップの株取引を巡り、個人トレーダーらによる相場操縦疑惑が持ち上がっているが、ゲームストップ株が低迷していた2020年夏、同株を大量に取得したアクティビスト(物言う株主)がいる。不明朗な株取引に対する規制強化論がにわかに高まる中、この株主と株価の関係に市場の関心が集まっている。
■5カ月で元手が約50倍
この株主はペット用品のネット販売を手掛けるチューイーの共同創業者のライアン・コーエン氏。20年8月までに621万株、さらに9月と12月に買い増し、現在は900万株(発行済み株式数の12.91%)を保有する。
ゲームストップは20年1月期まで2期連続最終赤字で21年1月期も赤字が予想されている。ゲームはオンラインによるダウンロードが主流となった上、新型コロナウイルスの感染拡大で対面販売が苦境に陥った。
その一方で、QUICK・ファクトセットによれば20年夏ごろまではPBR(株価純資産倍率)が0.5倍前後と「超割安」だった。コーエン氏は対面販売からネット販売への転換によるゲームストップの復活シナリオを描くとともに、バリュー投資家としてゲームストップの資産価値に着目したようだ。
コーエン氏の買い付けコストは総額9100万ドル(約95億円)とみられる。これに対し、1月28日の終値(193.6ドル)で換算した保有時価総額は17億4200万ドル(約1810億円)。同日の高値(483ドル)で計算すると43億4700万ドル(4520億円)だ。元手はわずか5カ月で約50倍になった。
■名経営者なのか、それとも…
コーエン氏は20年11月、ゲームストップに対し、ゲーム市場の成長を取り込むため経営改革を要求。これに対しゲームストップも今月11日、コーエン氏が新たに取締役に加わると発表した。株価が動き始めたのは、その直後だ。SNSの「レディット」で株式やコールオプション購入への呼びかけが増え、株価は10ドル台から一時は一気に500ドル近くまで急騰した。
※ゲームストップの株価推移
米国では手数料無料で株取引ができるスマホアプリ、ロビンフッドなどを利用した個人トレーダーの急増で、不特定多数の投資家を一つの銘柄に呼び込み、相場を意図的に動かす「仕手集団」のような存在は生まれやすくなった。コーエン氏は名経営者なのか、それとも有能なバリュー投資家なのか、はたまた個人トレーダーを裏で操る「仕手本尊」なのだろうか。市場参加者は戸惑っている。
<金融用語>
コールオプションとは
ある商品を将来のある期日までに、その時の市場価格に関係なくあらかじめ決められた特定の価格(=権利行使価格)で買う権利のこと。 コールオプションの取引は、買い方(買うことができる権利を買う)と売り方(買うことができる権利を売る)が同時に存在する。 新規に取引を開始する際には、買方はプレミアム(オプション価格)を支払い、一方売方はプレミアムを受取る。その後決済時等に、買方が権利を行使すると、対象とする商品を権利行使価格で手に入れることができる。一方、売方はこの権利行使に応じなくてはならない。