1月のバルチック・ドライ指数(BDI)は1658と前月比+414・前年同月比+957で2カ月続伸。船型別では、ケープサイズ指数(BCI)が2614と同+1027・同+1900で3カ月ぶりに反発、パナマックス指数(BPI)が1592と同+199・同+815で2カ月続伸、ハンディマックス指数(BSI)が1092と同+59・同+521で2カ月続伸、ハンディサイズ指数(BHSI)が666と同▲4・同+277で8カ月ぶりに反落。いずれの船型も前年同月を大きく上回る水準で、年明けにマーケットが下落する例年のパターンとは裏腹にBDIは2019年10月以来の高水準に付けた。
■石炭需要増と船舶の足止めで市況上昇
1月における各船型の主要航路レートは、ケープサイズ=US$21,678/DAY(前年比+186.6%高)、パナマックス=US$14,325/DAY(同+104.8%高)、ハンディマックス=US$12,019/DAY(同+91.2%高)、ハンディサイズ=US$11,990/DAY(同+71.1%高)。ケープサイズ・パナマックスは昨年12月に前年より▲2~3割低い水準に留まっていたが、今年1月は前者が前年同月の約3倍、後者も2倍の水準へ急騰。引き続き回復基調を辿る中国経済と、記録的寒波による電力需要増と国内物流網の混乱によって輸入炭需要が増加、一方で滞船により足止めを受ける船舶の急増が船腹需給を大きく引き締め、市況上昇に繋がったと考えられる。
■中国などで粗鋼生産が増勢
世界鉄鋼協会(WSA)によると、2020年の世界の粗鋼生産量は18億6,410万トンと前年比▲0.9%の微減に留まり、4年連続の18億トン超をマークして2019年に次ぐ過去二番目の高水準となった。主要地域別では、アジアが同+1.5%増の13億7,490万トン、欧州(28カ国)が同▲11.8%減の1億3,880万トン、北米が同▲15.5%減の1億110万トン、CIS(ロシアなど6カ国)が同+1.0%増の1億200万トン、中東が同+2.5%増の4,540万トン、南米が同▲8.4%減の3,820万トン。世界がコロナ禍に見舞われた2020年、欧州・北米・南米の落ち込みが特に大きかった一方、アジア・中東の一部が増勢を示して明暗がくっきり分かれた格好。
主要国別で見ると、アジアでは中国が初の10億トン超を記録しており、同+8.0%増の10億5,300万トン、ベトナムも同+11.6%増の1,950万トンと堅調な伸びを示した一方、日本は同▲16.2%減の8,320万トン、インドが同▲10.6%減の9,960万トン、韓国が同▲6.0%減の6,710万トン、台湾が同▲6.3%減の2,057万トンへそれぞれ縮小。
■インド・ウクライナ産鉄鉱石の輸入が急増
中国政府系シンクタンク冶金工業研究員は昨年末公表した中国鉄鋼需要概況の中で、2020年の国内鋼材消費量は前年比+8.5%増の9.7億トンで、全体の約6割が建設業向けで5.7億トンと同+13.4%増加、また、機械向けも1.6億トンと同+2.1%増加が見込まれている。一方で、自動車向けが同▲0.9%減の5,300万トン、造船向けも同▲5.6%減の1,180万トンとそれぞれ縮小の見通し。ただ、2020年に需要が落ち込んだ分野の殆どが2021年にはプラスへ転じると予測されており、引き続きのマイナスが見込まれているのは造船のみ(▲4.2%減)。
中国税関総署が1月20日発表した輸入先別貿易統計によると、同国の2020年鉄鉱石輸入量=11.7億トン(前年比+9.3%増)のうち、豪州産は7.13億トン(同+7.0%増)、ブラジル産は2.36億トン(同+3.5%)とそれぞれ前年水準を上回った。一方、インド産も4,480万トン(同+88.2%増)、ウクライナ産は2,480万トン(同+77.9%増)でこの二カ国からの輸入は倍近い水準へ急増。
中国の鉄鋼ミルは2019年1月にブラジルで発生したダム決壊事故以降、同国からの高品位鉱石の供給減少と価格高騰によって低品位鉱石の使用比率を高めるようになった。特に2020年に顕著となったのは上記のとおりインド産やウクライナ産鉄鉱石需要の増加。インドではコロナ禍で国内経済が鈍化したタイミングとも重なったが、自国鉄鋼生産が停滞したことで国内の原料需要も鈍り、中国向け輸出を加速させようとするインドのサプライヤーと安価で安定供給が見込める鉄鉱石を求める中国需要家の思惑が一致したと考えられる。
■原料炭の高騰で高品位鉱石へシフトか
ただ、2021年もインド・ウクライナ産鉄鉱石の輸入が前年のような爆発的増勢を維持するかは不透明でもある。足元で中国ミルが再び高品位鉱石需要を高めているとの指摘が聞かれるようになってきているからだ。その背景の一つに原料炭やコークス価格の急騰がある。中国国内の原料炭供給が逼迫している中で原料炭やコークスの価格が高騰しており、鉄鋼ミルがコスト削減のため鉄分含有量の高い鉄鉱石をより多く使用して生産効率を向上させる志向へシフトしていく公算が高まっている。
中国国内で生産される石炭は品質的に製鉄用途に向かないため、原料炭は輸入依存度がもともと高いことで知られる。そして、原料炭輸入の9割が豪州産・モンゴル産で占められるが、足元では豪州炭の輸入が当局から規制されており、大口輸入先はモンゴルに絞られている状況。米国・カナダからの原料炭輸入も俄に増加しつつあるが、数量規模は豪州・モンゴルを大きく下回るため、今年も中国が豪州からの輸入を規制し続ける場合、特に原料炭の需給はより逼迫していくと予想され、そうなると原料炭価格の高騰にも歯止めが掛からなくなる可能性もある。
<金融用語>
バルチック・ドライ指数とは
バルチック・ドライ指数とは、正式名称は「The Baltic Dry Index=通称BDI」で、英国のバルチック海運取引所が算出・公表する指数。世界各国の海運会社やブローカーから、鉄鉱石・石炭・穀物などの乾貨物(ドライカーゴ)を運搬する外航不定期船の運賃を収集し、一日1回算出している。1985年1月4日を1000として算定、国際的な海上運賃の指標となっている。株式市場でも、海運会社、特に不定期船を主力とする会社との株価連動性が高いとされる。