【QUICK Market Eyes 大野弘貴】株高の勢いに失速の気配が見えない。12日の日中取引では小幅に安く推移しているが、8日には日経平均株価に次いで東証株価指数(TOPIX)も18年高値を上回った。特に足許で上昇が目立つのは新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、業績が大きく落ち込んでいた企業群だ。日本ではワクチン接種がいまだ始まっていないが、株式市場では早くもコロナ後を織り込み始めている。
■新型コロナの収束を期待
内閣府が発表した1月の景気ウォッチャー調査は、景気の現状判断指数(DI、季節調整値)が前月比3.1ポイント低い31.2と、3カ月連続で悪化した。家計動向関連、企業動向関連、雇用関連のすべてのDIが低下した。
それでも、先行き判断DIは前月比3.8ポイント上昇した39.9だった。先行きへの見通しは悪化していない。
先行きへの景気判断理由に「緊急事態宣言期間が終了すれば、来客数が少しずつ回復する。また、ワクチン接種がスタートすれば景気には追い風になる(南関東=百貨店)」、「季節が春に向かうなか、新型コロナウイルスの感染状況も減少傾向になるとみられることから、景気は今よりも上向くと期待している(北海道、観光名所)」など、新型コロナの収束を期待する声が目立っていた。
■2~3年後にはコロナ前に回復か
8日終値時点の業種別TOPIXの年初来騰落率をみると、19年末以降プラス圏で推移する精密や医薬が伸び悩む一方、鉱業や石油、銀行などの出遅れ業種の上昇が目立っている。
TOPIXの予想EPS(1株利益)も反転基調にある。FactSetがまとめたEPS予想(5日時点)は21年3月期が100.72円、22年3月期が121.68円、23年3月期が138.42円と年間10%超の利益成長が見込まれている。
23年度末の予想EPS138.42円は19年4月末時点で予想された20年度末予想EPS140.45円以来の水準となっている。2~3年後には企業業績もコロナ前を回復するとのコンセンサスが形成されつつある。
■「積極的に売れる銘柄が限られる」
また、5日時点でTOPIX構成銘柄のうち、アナリストが予想する個別企業のEPSが1カ月前と比べて上昇した企業数は415社、減少した企業数は243社、変わらずが564社あった。
それぞれの銘柄群をバスケット化し、2020年10月末以降の値動きを確認したところ、アナリストがEPS予想を上方修正した銘柄群は上昇率が20%を超えた一方、下方修正先は約13%高にとどまっている。
市場参加者からは「21年3月期の本決算が発表される5月ごろまで、今後の業績改善への期待が醸成されやすい環境が続く」(外資系証券株式トレーダー)、「空売りの踏み上げ騒動があったことに加え、企業業績の持ち直し、ワクチン接種の拡大による景気拡大期待から、ロング・ショート戦略で積極的に売れる銘柄が限られる」(国内運用機関)等の声が聞かれた。
<金融用語>
景気ウォッチャ―調査とは
景気ウォッチャ―調査とは、内閣府が毎月、当月分を25日から月末にかけて実施する「街角の景況感を判断するためのアンケート調査」のこと。調査結果は、翌月第6営業日頃に公表される。調査対象者は国内11の地域、3つの分野(家計・企業・雇用)から選ばれた約2000人で、百貨店の売り場担当者やコンビニエンスストアの店長、タクシー運転手、職業安定所の職員など、街角景気を肌で感じることができる現場の個人である点が特徴。 地域ごとの景気動向を的確・迅速に把握し、景気動向判断の基礎資料とすることを調査の目的としており、調査対象者は3ヵ月前と比較した景気の現状に対する判断や現在と比較した2~3ヵ月後の景気の先行きについて5段階評価で回答するほか、それぞれの理由について具体的なコメントを行う。