【日経QUICKニュース(NQN) 中元大輔】12日の国内債券市場で長期金利が低下(債券価格は上昇)した。きっかけは日銀が3月に結果公表を予定する政策点検で「マイナス金利の一段の引き下げを辞さない方針の明確化を検討する」との一部報道だった。市場では、報道が事実なら点検が金融緩和の後退ととられるのを避ける狙いがあるとの見方が多く、債券には緩和路線が維持されるとの安心感から買いが入った。
■副作用対策の点検ではない?
日銀は2016年、金融機関が預け入れる当座預金の一部にマイナス0.1%の金利を適用する政策を導入した。預金をすれば金融機関は損をする状況を作り、市中に融資を増やして経済を活性化させることが目的だ。
10日夕以降、時事通信などが「3月『点検』で日銀がマイナス金利の一段の引き下げを辞さない方針の明確化を検討する」と報じた。これを受け、12日の市場では、日銀が必要になればマイナス金利を深掘りするとの見方が広がった。長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りは12日午前に、前営業日比0.010%低い0.065%に低下した。
みずほ証券の丹治倫敦氏は、この検討が事実なら「点検が副作用対策に重点を置いたものではないと示す狙いがあるのでは」とみる。1月の金融政策決定会合では「金融仲介機能や金融市場の機能度への副作用についても点検すべきだ」「長期金利が上下にある程度の範囲で変動することは、金融機関の運用ニーズを満たす」など、緩和姿勢の後退ともとられかねない意見も目立っていた。
■織り込みけん制
市場では日銀が点検でプラスマイナス0.2%程度で容認している長期金利の変動幅を拡大し、償還までの期間が長い国債を中心にイールドカーブ(利回り曲線)がスティープ(急勾配)化するとの観測がある。10日には長期金利が20年3月下旬以来となる0.075%に上昇した。岡三証券の鈴木誠氏は「(変動幅拡大の)急ピッチでの織り込みをけん制した可能性がある」という。
日銀の若田部昌澄副総裁は3日の記者会見で、点検は「(金融緩和の)機動性も踏まえてやるべきだ」と話した。必要に応じたマイナス金利深掘りの提示は「景気が下ぶれしたときのことも考える、という姿勢の表れかもしれない」(大和証券の岩下真理氏)という。「3月の年度末を前に『緩和色』のないことをして株安・円高になるリスクを避ける」意味合いもあるとみている。
もっとも、実際にマイナス金利を深掘りするかどうかについては、金融市場や実体経済が混乱した「20年3月のコロナショック時ですら行わなかった」(みずほ証の丹治氏)として、慎重な見方も多い。