【日経QUICKニュース(NQN) 船田枝里、神能淳志】新型コロナウイルス感染拡大への日銀による危機対応が転機を迎えている。2月17日に実施した社債買い入れオペ(公開市場操作)で、残存期間「3年超5年以下」の社債の購入額を前回1月から500億円減らした。同年限の減額は昨年4月に企業の資金繰り支援の一環として購入枠の拡充などを決めて以降で初めてだ。
■売り手が減少している
日銀は購入額を1月末時点で予定していた2000億円ではなく1500億円で通知した。2776億円の応札に対し1500億円を落札し、応札額を落札額で割った応札倍率は1.85倍となった。購入額を減らしたにもかかわらず、応札倍率は1月の同年限に対するオぺでの2.10倍を下回った。落札された社債の最低利回りを示す「案分レート」も0.015%と、前回から低下した。
今回のオぺの結果は、売り手が減少しているのを示す。それが減額の背景にある。オペを拡充した昨年5月は3倍前後だった応札倍率は昨年9月に1倍台に低下し、応札額が予定額に届かない「札割れ」の可能性も意識されていた。1~3月期は年度末でもあり、日銀は「季節的に新規発行のペースが鈍っており、需給がタイトになっているため減額を決めた」(金融市場局)と説明する。企業の資金繰り支援そのものの必要性がなくなった訳ではないという。
昨年末にかけては大型の起債が相次いだ。今回のオペでも20年12月に起債した過去最大の発行額1兆円となったNTTファイナンス債や同11月起債のセブン&アイ・ホールディングス債など幅広い銘柄が購入の対象になったとみられる。日銀は債券を発行した1社あたりの購入額の上限を3000億円としており、すでに上限に達したため購入対象にならなかった銘柄も多いようだ。
■「日銀トレード」に影響か
日銀によるオペの減額は債券の発行市場に影響を及ぼす可能性がある。3年物や5年物の社債は、購入した投資家が短期間で日銀に売却して利ざやを稼ぐ「日銀トレード」の需要も多く、発行利率の上昇を抑えていた面がある。大手証券の社債担当者は「年金基金や運用会社など日銀トレードを手掛けていた投資家は、さらなる減額やオペでの下限レートの採用などを警戒して慎重になりかねない。新年度に入る4月以降は発行利率が上がりやすくなる」とみる。
社債オペは金融支援特別オペなどと同じく、日銀の新型コロナ対策の3本柱の1つだ。別の柱でもある米ドル資金の供給オペは昨年11月から3カ月間、応札がない日が続いた。国債や上場投資信託(ETF)の買い入れ手法は3月に予定する金融政策の「点検」で見直すとみられる。国内での初の新型コロナ感染者確認から1年あまり。コロナ危機への対応は変わりつつある。