【NQNニューヨーク 岩本貴子】代表的な暗号資産(仮想通貨)ビットコインが2月23日、急落した。一時4万4000ドル台と21日につけた最高値の5万8000ドル台から2日間でほぼ2割下落した。足元の急騰に対して懐疑的な発言が相次ぎ、売り圧力が高まった。
■マスク氏「高すぎるようだ」
ビットコイン価格は前週に5万ドルを超え、値上がりに拍車がかかっていた。最初に上昇相場に水を差したのは電気自動車(EV)テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)だ。テスラは8日に米証券取引委員会(SEC)へ提出した資料でビットコインを15億ドル分購入したことを明らかにしていた。そのテスラのCEO自ら、20日にツイッターに「ビットコインとイーサリアムの価格は高すぎるようだ」と投稿した。
ビットコイン価格の高騰に警戒を示すのはマスク氏だけではない。米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は22日のブルームバーグのインタビューで「ビットコインには強気になれない。マスク氏ほど資金がないのであれば、(投資には)注意すべきだろう」と述べた。イエレン米財務長官も22日の講演で投機的な資産であるビットコインの価格変動の大きさを指摘し、「投資家が損失を抱えて苦しむことを懸念している」と述べた。
仮想通貨の取引を分析するサンティメントによると、ビットコインは大口の取引が相場変動のきっかけになりやすい。今回の5万8000ドル台から4万4000ドル台への急落場面でも、大口投資家の売却が確認できたという。ビットコイン市場はいまだ未成熟で、大口の売買で価格変動が大きくなる市場であることに変わりはないようだ。
■懐疑的な見方も根強い
ビットコインの価値そのものへの警戒も根強い。米ニューヨーク大のヌリエル・ルービニ教授は2月のフィナンシャル・タイムズ(FT)への寄稿記事で「暗号資産は(金や株式などのほかの資産と違って)本質的に何の価値もない」と指摘した。ドイツ銀行の調査では、市場参加者の多くはビットコインの急騰を「バブル」だとみているという。保有に懐疑的な見方も根強く、一度下げ始めると売りを呼びやすいようだ。
米経済が新型コロナウイルスの影響を脱して徐々に正常化に向かう中で、モノやサービスに対する需要の高まりと大規模な財政支出を通じて物価上昇が加速するとの懸念が高まっている。ビットコインはインフレヘッジ(回避)のための代替投資先として機関投資家らから注目されている。ビットコインの先高観は根強いものの、参入した投資家は今後も変動率の高さというリスクに振り回されることになりそうだ。
<金融用語>
ビットコインとは
ビットコインとは、インターネット上の商取引の決済に用いる代表的な仮想通貨の一種。2009年から流通が始まったとされ、他の仮想通貨と同様、中央銀行が介在せず実物資産の裏付けがないのが特徴。専門の取引所を介して、円やドルなどとも交換できる。国境を越えた取引でも同じ通貨が利用でき、決済の手数料がほとんどかからないなどのメリットがある。 通貨単位はBTC。取引にはP2P(peer to peer、ピアツーピア)ネットワークと呼ぶパーソナルコンピュータなどの個人端末を直接結ぶ通信処理技術が活用されている。取引情報は暗号化され匿名データとしてネットワーク上に履歴が残る。通貨発行量(供給量)は約2100万BTCと上限が定まっており、通貨流通量も自動コントロールされる。 採掘(マイニング)と呼ぶ新たな通貨の発行は、偽造が事実上困難となる数式処理を駆使することで、すべての取引記録の正当性をチェックし台帳に追記する報酬として支払われる仕組みになっている。 ビットコインの売買は取引所によって価格が異なり、仮想通貨は株式投資におけるPER(株価収益率)などのような投資尺度をはかる目安がないため投資家の期待先行などで価格が大きく変動する傾向がある。投機資金が流入しやすいことに加え、匿名性の特徴から社会的に違法性の高い取引に利用されやすく、各国でその位置付けや対応が異なるなど、普及には決済通貨としての信用度に関わる課題がある。 日本では、2017年4月に改正資金決済法(仮想通貨法)が施行され、ビットコインをはじめとする仮想通貨サービスの適切化にむけた制度の整備が進みつつある。