非上場株式(未公開株式)に投資できる「株式投資型クラウドファンディング」で国内シェア首位のFUNDINNO(ファンディーノ)は、発行会社と投資家双方の利便性をテコに案件数を拡大してきた。運営主体である日本クラウドキャピタルは、非上場株式市場の信頼性向上に向けて、情報の非対称性の緩和と、転売が可能となる流通市場の整備を進めている。同社の柴原祐喜CEO(最高経営責任者)に現状を聞いた。(聞き手はQUICK Money World 野里常真衣、吉田晃宗)
――この2月で累積案件数が200件を超えたが、リターンや倒産事例は
「公表している2件と非公表の2件、合わせて4件でリターンが出ています。公表案件は法人が株式を買い取る形のEXIT(出口)で、大体1年半の投資期間で株価が1.5倍となりました。また、リターンは今後になりますが、先日TOKYO PRO Marketに上場承認されたケースも出てきました。もちろん、非上場株式は高いリターンが期待できる半面、流動性が乏しく、ベンチャー投資なので倒産リスクの高い商品です。実際、200社のうち3社が倒産もしくは解散に至りました」
「日本のEXITはIPO(新規株式公開)やM&A(合併・買収)を指すのが一般的ですが、我々は流通市場を整備することでEXITの選択肢を増やし、流動性リスクを緩和させていく方針です。また、情報の非対称性、つまり発行会社と投資家が持つ情報の差が上場企業に比べて大きいため、非上場株式市場が信頼されないという問題を緩和するためのサービスにも注力しています」
――非上場株式の流通市場とは?
「流通市場については2021年に開始予定です。日本証券業協会の株主コミュニティ制度を活用した気配値のない形での相対取引市場を、日本クラウドキャピタルが運営します。イメージとしては非上場株式のフリマアプリのようなものですね。個人だけでなく法人の参加も想定しています」
「情報の非対称性を緩和するため、2019年にFUNDOOR(ファンドア)という、経営管理・IR(投資家向け広報)ツールを立ち上げました。ストックオプションの潜在株を含めて、株主権利の取得・移転を管理できるシステムです。株主名簿の管理や資本政策の作成、財務管理のほか、株主との書類共有・事業報告までを一元化できるツールです。株主総会についても招集通知や委任状、議事録を自動で作成できます。このツールは、投資家側が使うことでIRツール、つまり上場企業でいうところの適時開示情報にあたるサービスにもなっています」
――現在の投資家の年齢層や性別、職業など特性について
「多いのは30~50代の男性です。以前は富裕層が多かったのですが、テレビCMを打った後はサラリーマン層(マス層)が増えました。登録ユーザーは5万人を超え、その内の75%が会社員、次いで士業や経営者の方が占めています。1件あたりの投資額は10~15万円で、投資目的は企業の成長を応援したいという目的が多いようです。投資家の適合性も厳密にチェックしており、一定の投資経験と金融資産があることを条件としています」
――案件の選別・審査の体制は?
「まず社内の案件化会議で事業性を確認し、さらに公認会計士が中心となって金融商品取引法に即したチェックを実施、その上で審査会議を実施しています。応募案件の掲載率は5%で、審査前に断るケースが多いです。未成熟な市場なので、自社のゲートキーパーとしての役割を意識し、リスクを可能な限り抑える方向で案件を選別しています」
「社員は70名で、審査チームは10名弱。応募から着金までの平均は2か月程度です。審査の過程において、経営者へのインタビューは特に力を入れており、(クラウドファンディングによる)公募増資に対して責任を持てるか、つまり株主とのコミュニケーションを取る心構えがあるかをチェックしています」
――今後について
「海外では、SDGs(持続可能な開発目標)の文脈でも株式投資型クラウドファンディングに注目が集まっています。ユーザーや顧客といった、企業の長期的なビジョンや持続性に関心を持つ株主を増やすことで、IPOを急がない経営ができるという視点です。資本が一部の富裕層の間でしか回らないシリコンバレー・モデルへの批判の流れから出てきました。この日本版と言えるようなプラットフォームになれればと思います」
「政策面では、すでに議論されていますが、二つの要件の緩和を期待しています。1社あたり1年間に1億円までしか調達できず、投資家は1人1社50万円までしか投資できない『少額要件』と、以前に別の手法で調達していた金額も調達限度額「1億円」に合算される『合算要件』です。適正な投資家保護とリスクに見合った内容になることを望みます」