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GPIFとは何か なぜ「クジラ」?ポートフォリオ(保有銘柄)や運用額、ESGとの関わりを解説

(初回公開日2021年7月16日16:00)

【QUICK Money World 辰巳 華世】老後不安の高まりから年金に注目が集まっています。毎月、お給料から年金保険料は自動的に引かれているけれども、その資金がどの様に年金として使われているのか実はよく知らない人は意外と多いかもしれません。今回は公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の説明とその役割、GPIFが保有する銘柄、運用状況や運用成果について分かりやすく解説します。

GPIFとは

GPIFとは公的年金を運用する独立行政法人「年金積立金管理運用独立行政法人」のことです。Government(政府)Pension(年金)Investment(投資)Fund(ファンド・基金)の頭文字を取っています。

そもそも公的年金とは、老後の生活や、何か障害を追って働けなくなったり、一家の大黒柱をなくしたりした時など人生のリスクに備えて、みんながお金を出し合って助け合う仕組みです。日本の公的年金制度は、自分が納める保険料を積み立てて自分が受け取る方式(積立方式)ではなく、現役世代が納めた保険料をその時々の高齢者世帯に給付(賦課方式)しています。

ここで問題となるのが、日本が直面している少子高齢化です。このまま子どもの数が減少し続けると、将来の現役世代の負担が大きくなりすぎる懸念があります。年金を受け取る世代に対して支える世代が少なくなると、現役世代が納める年金保険料だけで給付金をまかなえなくなり、不足額が発生します

公的年金制度が破綻しないように不足額を積立金で補う仕組みがあります。この積立金は、現在の給付金から年金の支払い分を差し引いて残った余剰金です。この資金が将来世代のために積み立てられています。

GPIFはこの積立金を増やすために長期的な分散投資で運用しています。GPIFでは、長期的に積立金の実質的な運用利回り(積立金の運用利回りから名目賃金上昇率を差し引いたもの)1.7%を最低限のリスクで確保することを目標としています。これは単年度の運用目標ではなく、年平均で1.7%です。

ちなみに、2021年度の年金積立金全体の名目運用利回りから名目賃金上昇率を引いた「実質的な運用利回り」は2001年度以降の21年間の平均で3.78%となり、長期的な運用目標である1.7%を上回っています。GPIFの長期的な運用目標は、2001年以来、計84 四半期中7割強の60四半期でプラスであり、長期投資 として経済成長の果実を享受できるポートフォリオ構成で運用をしています。

積立金はこの先約100年の年金計画の中で発生する不足額を補うために使用されます。計画では、年金財源のうち約1割程度を積立金で補う予定です

GPIFはどのような役割を担っているの?

GPIFは、厚生労働大臣から寄託された年金積立金の管理、運用をしています。運用収益を国庫に納付し厚生年金保険事業や国民年金事業を安定的に運用することを目的にしています。運用資金である年金積立金は将来の年金給付の貴重な財源です。そのため、長期的な分散投資を基本としています。適切なリスク管理のもと、年金積立金を安全かつ効率的に管理運用し、大きな損失を生むことを防止しています。

GPIFは、長期的な分散投資で運用しています。短期的な投資の場合、その時々の相場の影響を受けて、収益がマイナスになることもあります。一方で、長期的な投資の場合、基本的には世界経済の成長に合わせて資産価値も右肩上がりに上昇します。

具体的な数字で長期投資のメリットを見てみましょう。例えば、2000年末から2021年末までの約20年の運用で見てみましょう。2000年末に「外国株式」「国内株式」「国内債券」「外国債券」それぞれに100万円投資をした場合、2021年末にそれぞれの資産は、それぞれ1.4倍〜4,7倍まで資産価値が上昇しました。

  • 外国株式=468万円(4.7倍)
  • 国内株式=224万円(2.2倍)
  • 外国債券=272万円(2.7倍)
  • 国内債券=139万円(1.4倍)

さらにもっと長期運用を見てみましょう。1969年末に各資産に100万円を投資し、2021年末の約50年間運用をすると、各資産は6倍〜54倍と大きく資産が増えることが分かります。

  • 外国株式=5,391万円(54倍)
  • 国内株式=2,528万円(25倍)
  • 国内債券=1,256万円(13倍)
  • 外国債券=584万円(6倍)

出所:GPIFホームページ

長期投資の株式の運用結果を見ると、約50年で外国株式54倍、国内株式25倍、約20年でも外国株式4.7倍、国内株式2.7倍と抜群の上昇となっているので全部株式で運用するのが良いのではないかと思うかもしれません。ただ、株式は一本調子でずっと右肩上がりで上昇しているわけではなく、ある程度の波を繰り返しながら成長しています。

グラフからもわかる様に、しばらく伸び悩んだり、前年より下落することもあります。株式は時に下落幅が大きい場合もあります。GPIFの運用では、年金資産を安全かつ効率的に運用する必要があります。安全に運用するためには、大きな損失を避ける必要があります。

資産運用には「卵を一つのかごに盛るな」という格言があります。卵を一つのかごに入れてそのカゴを落とした場合、卵は全部割れてしまいます。卵を複数のかごに入れておけば万が一、一つのカゴを落としても他のカゴの卵は無事です。同じ様に、資産運用でも大きな損失を避けるためには、一つの資産だけに投資するのではなく、分散投資をすることが大切になります。

この様にGPIFでは、将来の年金給付の貴重な財源である年金積立金を安全かつ効率的に管理運用するため、長期的な分散投資を基本としています。

GPIFが保有する銘柄(ポートフォリオ)は確認できる?

GPIFは、約190兆円を運用する世界最大級の機関投資家で、株式市場では「クジラ」と称されています。株式市場への「クジラ」の出現が話題になったのは、第二次安倍晋三政権の時です。デフレ脱却からの長期金利上昇を想定し、これまで国債に偏ってきた運用を見直し、株式市場での存在感を高めたことがきっかけです。幅広い銘柄を一気に買うその姿から「クジラ」と称されるようになりました。クジラの動きは株式市場で注目を集めます。折に触れ、新聞などのニュースで「クジラ」に関する記事を目にしたことがある方も多いと思います。

そんな「クジラ」GPIFが株式市場で何を買っているのかは気になるところです。GPIFの買った銘柄(ポートフォリオ)は、HP(ホームページ)上で公開されています。2022年3月末時点では、トヨタ自動車(7203)やソニー(6758)、NTT(9432)など国内株式2347銘柄を保有しています。どれくらいの数量を保有しているかまで分かります。この他、国内債券、外国株式、外国債券、オルタナティブ投資で何を保有しているか開示されています。投資初心者の人は、安定的運用のためにGPIFが何に投資しているのかを参考にすると良いかもしれません。

GPIFとESG

GPIFは2015年9月、資金運用においてESG(環境、社会、ガバナンス)の視点を反映させる国連責任投資原則に署名し、2017年10月には株式にとどまらず、債券など全ての資産でESGの要素を考慮した投資を進めるよう、投資原則を改めました。GPIFの運用資金は大きく、将来の現役世代の負担軽減に使われる特性を持つため、長期にわたって安定した収益を獲得する必要があります。そのためには、投資先の個々の企業の価値が持続的に高まり、ひいては資本市場全体が持続的・安定的に成長することが重要です。ESGに配慮した投資は、長期的に見て、投資収益を改善する効果や社会的な影響を期待されているため、GPIFのような投資額の大きい機関投資家のあいだで関心が高まっています

GPIFは株式を直接保有せず、外部の運用会社を通じて投資しているため、GPIFから運用を受託している金融機関にESGを考慮して投資するよう求めています。また、株式を対象にした指数連動型運用(パッシブ運用)では「ESG指数」を採用しています。ESGの観点から評価が高く、ESG指数に採用される銘柄は、GPIFの買いが入りやすいとも言えます。

GPIFの運用状況・運用成果

GPIFのHPでは、運用状況や運用成果について四半期ごとに開示しています。開示資料では、該当四半期の収益率などの状況に加え、市場運用開始以降の累積の収益率なども開示しています。

どの資産にどれくらいの額を投資しているのかが分かる資産構成割合も公表しています。いわゆる金融資産の組み合わせであるポートフォリオです。GPIFでは、安定的な運用を目指すため、国内債券・株式、海外債券・株式の4資産がそれぞれ概ね各25%(上下6~8%の乖離許容幅有)の保有を目指し、運用しています。2022年9月末時点では、国内株式、外国株式ともに23.8%と若干25%を下回っています。一方、国内債券の保有が27.26%と外国債券が25.04%で、国内外債券で50%をやや上回っており、やや債券が多めの保有状況となっています。

※出社:GPIFのHPより

直近に開示されている2021年度(2021年4月~2022年3月)の運用資産全体の収益率は+5.42%(年率)です。収益額としては10兆925億円の黒字です。2001年度の市場運用開始から2022年9月末までの収益率は3.47%、累積の収益額は、ほぼ100兆円の黒字となりました。2021年度後半は、米国連邦準備制度理事会(FRB)など世界各国が金融緩和から金融引締へと市場環境が大きく転換しました。また、2022年2月にはロシアによるウクライナ侵攻が始まり相場環境が一段と不安定となる中、GPIFでは、市場の急速な変化に対応し、外国債券の社債比率を低減させるなどポートフォ リオのリスク削減とリスク管理強化に努めました。

※出社:GPIFのHPより

まとめ

GPIFは、公的年金を運用する世界最大級の年金基金です。私たち国民の未来のためにGPIFは安定した資産運用をしています。また、その資産構成割合の変化は、市場に一定の影響を与えるので、方針の大きな変更には注意しておいたほうがいいでしょう。

 

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著者名

QUICK Money World 辰巳 華世

2003年にQUICKに入社後、15年間勤務。約5年にわたり日本経済新聞社、日経QUICKニュース社(NQN)にて記者職に就く。QUICK退社後、フリーランスライターとして2020年より「QUICK Money World」に寄稿。


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