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宇宙旅行到来をESGで占う 防衛への関与や環境負荷が焦点(アラベスクS-Ray)

記事公開日 2021/8/17 15:00 最終更新日 2021/8/17 17:54 温室効果ガス ESGスコア アラベスクS-Ray

アラベスク

1年延期された東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が閉幕した。コロナ禍で無観客になった今回のオリンピックだが、7月には将来の観光業を大きく変えるであろう出来事が2つあった。民間企業による宇宙旅行である。

7月11日にヴァージン・グループ会長のリチャード・ブランソン氏が創業したヴァージン・ギャラクティック社が同氏を含めた6人を「スペースシップツー」に乗せて宇宙飛行した。そして、同月20日にはアマゾン・ドット・コム創業者ジェフ・ベゾス氏が創業したブルー・オリジン社が同氏を含めた4人を「ニュー・シェパード」に乗せて宇宙飛行を行った。既報のように、2つの民間有人宇宙飛行は成功し、今後の宇宙旅行に大きな可能性をもたらす出来事となった。 

以前の寄稿でビットコインのマイニングで発生する温室効果ガスの排出量について触れさせて頂いたが、宇宙旅行にも同じような環境への負荷が発生する。今回は、宇宙旅行をESG(環境・社会・企業統治)の面から考えてみたい。

有人宇宙飛行の成功が相次いだことで、宇宙産業に関係する企業への注目が集まっている。しかし、宇宙産業に関連している企業は現在のところロッキード・マーチン社、BAEシステムズ社、ノースロップ・グラマン社のような防衛関連の企業が中心である。アラベスクS-Rayでは、投資する上で懸念される事業活動をスクリーニングする「プリファレンスフィルター(選好フィルター)」を設けている。これら3社を防衛に関係する事業活動でフィルタリングしてみたい。

このように、3社ともに防衛(Defence)産業との関係が深く、防衛関連からの売り上げが総売上高の5%以上と全体に影響する割合まで占めている。さらに、3社とも対人地雷やクラスター爆弾、化学兵器等の人道的に問題のある武器(Controversial Weapons)の製造に関与がある。BAEシステムズ社とノースロップ・グラマン社は銃器(Firearms)の製造にも関与している。このように、現在のところ宇宙産業は防衛関連に関わっている企業を中心に進んでいることがわかる。

一方、有人宇宙飛行を成功させたヴァージン・ギャラクティック社とブルー・オリジン社は、宇宙旅行を目的に創業された新しい企業なので、前述の3社とは生い立ちが異なる。ブルー・オリジン社は上場していないため、ESG関連の情報が公開されていないが、ヴァージン・ギャラクティックは持ち株会社がニューヨーク証券取引所に上場している。そこで、ヴァージン・ギャラクティック社の投資上懸念される事業活動を確認してみる。

ヴァージン・ギャラクティック社は売り上げ全体に影響するほどの比率ではないが、防衛産業に関与していることがわかる。同社のIR用のウェブサイトに記されている事業内容を確認すると、同社は民間人や研究者向けに有人飛行を提供するパイオニア企業で、高度な航空・宇宙飛行機を開発するメーカーとある。さらに、宇宙における商業的な探査と従来の旅行方法を変えるテクノロジーの開発としている。つまり、同社は今後、本格的に防衛関連事業を行っていく可能性は低いと思われるものの、同社の経営状況やその環境によっては、防衛関連事業に軸足を置くことも考えられる。

次に、防衛産業に関連している3社とヴァージン・ギャラクティック社のESGに関する評価をアラベスクS-Rayの「ESGスコア」と国連グローバルコンパクト(GC)の原則に基づいて企業の行動規範を評価して算出する「GCスコア」で見てみたい。

2021年7月26日現在のESGスコアを確認すると、防衛事業に関連している上述の3社は高いスコアを獲得している。GCスコア、ESGスコアでは3社とも50を上回っており、ESGの観点では優れた企業である。一方、新興企業のヴァージン・ギャラクティック社は、現時点では企業統治に関する情報の公開は充実しているが、環境(E)と社会(S)については公開されている情報が少ない。そのためGC、ESGのいずれも4社の中で最も低いスコアとなっている。しかし、ESGスコアのサブスコアを構成する企業統治のスコアは4社の中で最高だった。企業統治に優れた企業は通常、ESGの取り組みを積極的に推進していくので、ヴァージン・ギャラクティック社の今後の取り組みが期待される。

最後に環境面をみてみたい。2021年7月10日付英フィナンシャル・タイムズ電子版の記事によると、今回のヴァージン・ギャラクティック社のスペースシップツーの二酸化炭素(CO2 )排出量は1乗客当たり、ビジネスクラスのロンドン-ニューヨーク往復の1,238キログラム(国際民間航空機関による算出)に相当するという。スペースシップツーは往復100マイル飛行したといい、CO2排出量を1マイル当たりで換算すると約12キログラムになる。一方、大西洋を飛行する国際線は往復6,900マイルを飛行するので約0.2キログラムと算出される。スペースシップツーのCO2排出量の負荷は国際線の約60倍である。

民間による有人宇宙飛行は希少なイベントではあるが、今後の宇宙旅行の発展には、CO2の排出量対策が重要となってくるであろう。ここで、一つの明るいニュースとして挙げたいのは、ブルー・オリジン社の開発したニュー・シェパードが水素を燃料として使っているため宇宙飛行にCO2を排出しないことである。また、ブルー・オリジン社とヴァージン・ギャラクティック社は今後、再生可能な部品や素材を用いた宇宙飛行機を開発する方針を発表している。再生可能な部品で製造された宇宙飛行機が水素を燃料に宇宙を飛行するカーボンフリーの宇宙観光時代が一気に到来するのではないだろうか。

雨宮 寛(あめみや・ひろし)アラベスクS-Ray社日本支店代表。アラベスク・グループの日本事業の責任者。アラベスク以前は外資系金融機関で運用商品の開発に従事。CFA協会認定証券アナリスト。一般社団法人日本民間公益活動連携機構アドバイザー、明治大学公共政策大学院兼任講師。NPO法人ハンズオン東京副代表理事。ハーバード大学ケネディ行政大学院(MPA)、コロンビア大学経営大学院(MBA)。

著者名

アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮 寛


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