ロシアが2022年2月24日にウクライナに侵攻してから8月24日で6カ月が経過した。その間、ロシアで事業活動を行う企業に対する風当たりは強く、米名門大学のエール大学経営大学院の最高経営リーダーシップ研究所(Chief Executive Leadership Institute)は、ロシアで事業を活動していた企業のリストを公開し、ロシアから撤退しているか、事業活動を継続しているかをウェブサイトで情報提供している。今回は、このウェブサイトから日本企業を取り挙げて、この半年間のESGスコアの推移を確認してみたい。
同ウェブサイトによると、執筆時点の最新更新日は8月26日となっており、日本企業は64社が掲載されている。このうち、ジェーシービー、矢崎総業、YKKは非上場企業のため、現在ESGブックではスコアの対象となっていない。また、ローランドは上場企業であるが、2020年12月に再上場し間もないため、スコアの対象となっていない。これらの4社を除いた60社で分析してみたい。
ロシアによるウクライナ侵攻により、経済制裁をロシアに科している中、事業活動の継続可否の判断が問われている。そこで、ここではESGスコアと人権や労働を評価するサブスコアの社会(S)スコア、そして企業倫理や透明性を評価するサブスコアのガバナンス(G)スコアの推移を60社で確認してみたい。この半年間でESGスコア、社会(S)とガバナンス(G)のサブスコアの下落した企業は下表のようであった。
(表1)ESGスコアがこの半年で下落した、ロシアに進出していた日本企業数
出所:ESGブックのESGスコアおよびESGスコアのSとGのサブスコア。2022年2月24日と8月24日の各スコアを比較
ロシアにおける事業の継続可否のみが影響を及ぼしているとは限らないが、いずれのスコアも同ウェブサイトに掲載された企業の半数程度のスコアはこの半年間で下落していることがわかる。
同ウェブサイトでは、掲載している日本企業64社について、各社の関与状況のグレードを5段階で評価している。
(表2)ロシアに進出していた日本企業の関与状況
出所:エール大学の経営大学院最高経営リーダーシップ研究所の”Yale CELI List of Companies Leaving and Staying in Russia”のウェブサイト(yalerussianbusinessretreat.com)から事業関与のグレードの社数は8月26日の同ウェブサイトのアップデート情報を元に筆者作成
このように、64社の日本企業の事業継続のグレードは大きく分かれていることがわかる。撤退や一時中止を決めた企業は合計37社と半数以上となっている一方、縮小や検討中として事業自体は続けていると判断された企業は12社、そして、事業を現在も継続していると判断された企業は15社ある。
そこで、事業を継続している企業14社(15社のうちの1社は非上場企業の矢崎総業のため下表から除く)のスコア推移をまとめてみたい。
(表3)ロシアでの事業を継続している日本企業のESGスコア
出所:ESGブックの各日付のESGスコアと社会(S)、ガバナンス(G)のサブスコアを使用。企業はエール大学の経営大学院最高経営リーダーシップ研究所の”Yale CELI List of Companies Leaving and Staying in Russia”のウェブサイト(yalerussianbusinessretreat.com)のDigging Inから8月26日のアップデートを元に筆者作成。証券コードを付け、コード順に並べ替え
14社のうち、ESGスコアが半年間に下落した企業は6社、社会(S)のサブスコアが下落した企業は5社、そしてガバナンス(G)のサブスコアが下落した企業は9社あった。このカバナンスのサブスコアの下落した企業が14社中9社ということは、ロシア事業を継続していると判断されていることが、ある程度影響しているのではないかと思われる。さらに、3つのスコアともに下落した企業は2社、東京電力ホールディングスと沖電気工業であった。
今回の分析は、ロシアによるウクライナ侵攻が行われている半年間のスコア推移に限定した。ESGブックのスコアは日々のニュースも反映される。ロシアへの経済制裁が行われている中、事業を継続していると判断された上場企業はメディア等でも多く取り上げられたため、その結果がある程度示されたのではないかと思う。傾向をさらに分析するためには、日本と同じようにロシアへの経済制裁を行っている国々の状況を見てみる必要があるだろう。